「千鶴ちゃん!」

今日も元気に巡察をしていたあたしたちの前に現れたのは、活発な印象を受ける一人の少女だった。彼女はどうやら千鶴の知り合いらしく、何やら親しげな様子の二人にあたしと総司は首を傾げる。

「あれ?何、その子」

「千鶴の友達?」

「あ、えっと…」

「前に、浪士に絡まれてたところを助けてもらったんです」

千鶴に『お千ちゃん』と呼ばれた美少女は、彼女らが会ったきっかけとなった事件(というのは大袈裟か)を簡潔に教えてくれた。
千鶴が言うには、彼女を助けたのは正確にはイチくんで、千鶴自身は大したことはしていないのだそうだけど。そんなことはない、との少女の言い分からすると、助けなきゃと思って飛び出したはいいが結局イチくんに助けられることになった、とかその辺だろう(正解)。

その時のお礼にお団子をご馳走したい、と言う少女を総司は品定めでもするような目で暫し見ていたけど、やがて千鶴に向き直り、その背を押した。

「行ってきたらいいんじゃない?たまには息抜きも必要でしょ」

「えっ…いいんですか?」

「近くを一回りしたら迎えに来るから、ゆっくりお茶でも飲んでおいで」

千鶴がいなくても巡察自体に影響はないしと総司はさらっと言うけれど、彼女の立場を思えば破格の待遇だ。千鶴はありがとうございます、と深々頭を下げた。

「それじゃあたしも…」

「はいはい、君はこっち。ダメだよ、ちゃんとお仕事してくれなきゃ」

「えー。だってほら、千鶴を一人にして、もしものことがあったら…」

「大丈夫だよ。それに君の仕事は、千鶴ちゃんの護衛じゃなくて僕の補佐でしょ。僕から離れられると困るなぁ」

「あたしも美少女とお喋りしたい」

「本音言ってもダメです」

数時間粘ろうと全く折れてくれなさそうなので、あたしは涙を飲んで巡察を続けることにした。くそぅ、あのアクティブ系美少女、絶対あたし仲良くなれんのに…!

「クライサちゃん。いくら悔しいからって、襲ってきた浪士全員半殺しにすることはないんじゃない?」

「別に問題ないでしょ。襲ってきたのは向こうだし、敵に情けは無用」

「僕にも残しておいて欲しかったな」

「そういう話かよ」

その後、茶店に千鶴を迎えに行くと、少女は用事があるからと言って、別れもそこそこにとっとと走り去ってしまった。……結局ろくに話せなかったなぁ…

そして、話は屯所に戻ってからだ。
どうやら千鶴はあの少女の申し出で、自分の置かれた状況について話をしたらしい。新選組の秘密に関わることはもちろん洩らすことなく、父を捜しているという話を。
少女は島原に知り合いがいるから、もしかしたら力になれるかもしれないと綱道さんの特徴を聞いてきた。

「島原って、京の情報が集まる場所だって言うからね。その子が協力してくれるなら、意外とあっさり見つかるかも」

「それで、父様の外見を話したんだけど…」

『最近、怪しい連中が島原でよく会合を開いているらしいっていう噂を耳にするの』

その中に綱道さんに似た外見の人がいたという話を、少女からされたのだそうだ。もちろん、綱道さんじゃないかもしれない。だけど、綱道さんかもしれない。
とにかく、その怪しい連中のことを千鶴は近藤さんたちに報告することにしたのだ。

「あたしたちもね、胡散臭い連中が島原界隈をうろうろしてるらしいって話は掴んでるんだ」

「ただ、島原は場所の性質上、どうしても御用改めがしにくくてな。証拠もねぇのに、怪しい客を片っ端からふん捕まえるわけにもいかねぇし」

「いいじゃんソレで。違ったらゴメンって言やいいんだって」

「テメェは黙ってろ」

その怪しい連中の座敷に呼ばれたお姉さんから話を聞ければいいんだけど、芸者さんって特に口が固いんだよね。それならこっちが芸者に扮して、客から直接情報を引き出すほうが早い。だけど、こっちにはそんな真似を出来る人間がいない。……と思った時に。

「あの……私では駄目でしょうか?」






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