最近、面白くないニュースばかり聞いている気がする。
幕府の十四代将軍、徳川家茂の死。頭を失ったこともあって士気が上がらず、幕府軍の大敗で終わった第二次長州征伐。新選組の中で言えば、幕府に雇われている立場でありながら公然と尊王論を唱える伊東が、仲間を集めて何やらこそこそやっていること。ま、あたしとしてはその辺はあくまで他人事なんだけど。

「制札の警護?」

そんな時、また新たに入ってきたニュースは、三条大橋に立てられていた制札を引き抜いて鴨川に捨てた馬鹿が現れた、というものだった。確かそれは、長州藩が朝敵であることを知らしめるために立てた幕府の札、だったかな。
その後制札は立て直されたのだけど、また引き抜かれてしまったらしい。それで新選組に声がかかったのだという。以前札を引き抜かれたのが夜中だったということから、通常の巡察以外の組が交代で一晩見張りにつくことになる、と土方さんから伝えられた。

「今日は二番組が見張りにつく。一番組は明日だな。総司は屯所に残らせるから、お前が隊士どもと制札を見張れ」

「やです」

「即答かこの野郎」

すぐさま脳天に手刀を食らったけど、そこは譲れない。

「向いてないんですよ、あたし。そういう地味な仕事」

「胸張って言うんじゃねぇ」

「浪士と斬り合えってんなら喜んで引き受けるけどね。張り込み偵察潜入捜査、その辺の仕事はあたし向きじゃないの」

ここは自信を持って言える。忍耐が必要な仕事、大人しくしていなきゃならない仕事はあたしに向いていないのだ。昔から。全身を動かして暴れ回れるような仕事じゃなきゃ、全くやる気になれやしない。一晩中隠れて制札見張ってなきゃならないなんて、退屈で死ねる。

「ただでさえ最近は机仕事続きだったってのに、そのうえ更に見張りなんかさせられたら、うっかり長州藩邸に単身乗り込んじゃいそうだよ」

「ガキのワガママが通るとでも思ってんのか?」

「土方さん。クライサちゃんならきっとやりますよ、長州藩邸潰し」

「……」

いつからいたのか、襖の向こうから姿を現した総司が副長室に足を踏み入れ、あたしの隣に立った。

「大体、この子が一晩中おとなしくしてるなんて、天地がひっくり返っても出来るわけないじゃないですか」

「わぁ。真っ向からの全否定だね。あたしそこまでは言ってないんだけどな」

「そうだな…騒いで見つかって取り逃がすのがオチ、か…」

「あれ、それで納得しちゃうの?どうしよう、なんか複雑」

結局、あたしを理由に一番組は見張りから外された。今夜の見張りは新八の二番組、明日の晩は左之の十番組が向かうことになり、明後日に十番組が担当する筈だった昼の巡察をかわりに一番組がすることになった。万事解決。めでたしめでたし。

そして、新八らが見張りの当番だったその日は何もなく、事が起きたのは翌晩。十番組が見張っているところに制札を抜きに来たのは土佐藩士八名で、左之たちは彼らを取り押さえた。なんだ、そんなあっさり出てきてくれるのなら、一番組が当番でも構わなかったかな。
左之は会津藩の方から出た報償金でみんなにご馳走したいと言い、あたしと千鶴は幹部組と一緒に島原の角屋に連れられて来た。払いは左之持ちだということで、新八や平助は先程から物凄い勢いで飲んだり食べたりしている。無遠慮にも程があるとあたしですら思うくらいには。

「どしたの、千鶴?」

「あ、クラちゃん…」

お酒呑めない組はご飯をたらふく食べていこう、ということであたしも遠慮なく食事をしていたのだが、千鶴が何やらぼんやりした表情で箸を止めているのに気付いて声をかける。どうやら彼女は、土方さんの隣で彼と話をしている芸者さんを見ていたようだ。

「君菊さんって言ったっけ、あの人。美人だよね。着物に見劣りしない」

「うん…ああいうのを美男美女っていうんだろうなって」

なるほど、土方さんと並ぶと絵になること。それを千鶴は、単なる観賞でなく複雑な心持ちで見ていたわけか。同じ女として自信なくした、とかそんなとこ?

「青いねぇ」

「え?」

「なんでもなーい」

そんな明るいムードを楽しんでいたあたしの耳に、左之たちのほうから気になる話が聞こえてきたのはそのすぐ後だった。






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