血溜まりの中はあたたかかった。
しかしそれを感じる反面、体の中がどんどん寒くなっていくのがわかった。あたたかい、という感覚も消えていった。
笑っていた。
何がおかしいのかはわからない。何を思って笑っていたのかもわからない。ーーいや、おぼえてない、と言ったほうが正しいのかもしれない。
あれは、確かに自分の記憶なのだ。いつかの記憶だったのだ。血にまみれ、何かを殺し、笑っていたのは自分だった。足元から這い上がってきた、冷たい何かに全身を包まれたのもーー迫り来る『死』をおそれたのも、自分だった。



「ーーー」

かっと目を見開いたあたしは、起き上がりざま、何故か腕を振り上げていた。

ドカンともバコンとも形容しがたい音と共に、廊下に面していた襖が境内に吹っ飛んでいった。たまたま通りかかったらしい左之が、驚いた様子で空飛ぶ襖を見送って、それからこちらに顔を向ける。

「何やってんだ、お前?」

階段の辺りで履き物を脱ぎ、廊下を跨いであたしの部屋に入ってきた彼の呆れを含む声に、あたしは若干ぼんやりした頭で自分の行動を省みてみた。

「……寝ぼけてた?」

「…なんだよ、それ…」

より呆れた反応をいただいた。
余程嫌な夢を見たんだろう、と言って左之は苦笑するけど、あたしは先程まで見ていた夢の内容を既に忘れてしまっていたことに気付く。なんだろう……なにかひたすら胸クソ悪い夢だった気はする。
とりあえずろくな夢ではないだろうということに落ち着けて、現実に戻るのを選んだあたしは、そこで漸く気がついた。

「…………寒い」

「そりゃそうだろ。冬なんだから」

上に何も掛けずに寝てたんなら尚更だ、と左之は布団の敷かれていない室内を見渡してからまた苦笑した。うん、本当は寝るつもりなかったんだけどね。本読んでたらうとうとしちゃったんだよ。

「襖、なんとかしねぇと…寒いまんま寝ることになるぜ」

「そうだね……しょうがない、拾いに行くか」

廊下に面していた襖全部吹っ飛ばしちゃったから、あたしの部屋今フルオープン状態なんだよね。こんな状態で冬の夜を凌げるとは思えない。土方さんに見つからないよう、早急に修復する必要がある。

「ああ、お前はここにいろ。俺が新八あたりと一緒に直してやっから」

「え?いいよ、そんな……」

急に何を言い出すのやら。不可抗力(?)とはいえ吹っ飛ばしたのはあたしなんだから、あたしが直すのが当然なのに。
そう言おうとした時、左之の手があたしの額を小突いた。

「顔、真っ青だぜ」

「……え」

「いいから大人しくしとけって。こういう時くらい男に任せとけよ」

お前も一応女なんだし、と続けられた言葉に、一応ってなんだ、と反論することを忘れてしまった。自分で思っているよりも弱っていたのかもしれない。
言い返す言葉も思いつかないまま、左之は襖が飛んでいった方向へと歩いていってしまう。あたしはとりあえずその場に腰を下ろし、言われた通り大人しく彼の帰りを待つことにした。

結局、あたしが吹っ飛ばした襖は修繕不能なほどボロボロになっていて、新しくするしかない状態だった。もちろん土方さんに怒られる結果になったんだけど、そんな必要ないのに左之まで一緒に怒られてくれて、あたしは彼がただの女たらしでないことを再確認したのだった。

「左之はジェントルマンだね…」

「じぇん……何だって?」






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