「新選組で一番強いのって誰だと思う?」
刺激が足りないと思いつつも鬼副長に聞き咎められては面倒なので口にはしない、平和な午後の一時。今日は日差しもあり、珍しく暖かいので境内の階段に腰を下ろしてお喋りの輪に加わっていた。
そんな素朴な疑問は、新八の口から発せられた。
「一番強いのかぁ……道場でなら、やっぱ総司か一君あたりじゃねぇの?」
彼の質問に腕を組んだのは平助。その横では左之が顎に手を当てている。
「だな。斎藤もだが、昔から総司は別格だったしな」
「へー」
そんな発言を聞きつつ、あたしは左方向へと視線を移す。そこには洗濯物を取り込む千鶴と、彼女にちょっかいを出して遊んでいる総司の姿があった。女の子困らせて楽しむって、ガキか本当。まぁいつものことなので放っておくけど。
「麻倉もなかなかの腕だよな。その総司や斎藤と打ち合えるんだから」
「んあ?そりゃどうも」
ふいに水を向けられたので視線を戻す。
「単純な剣技だったら多分オレらのほうが上だけど、クライサって蹴りとかすげーもんな」
「五十人斬りなんか実践しちまうくらいだしな。女にしとくのが勿体ねぇよ」
「あー、まぁ経験が結構あるからね」
軍人として働いていた頃は、大勢を相手に立ち回ることなんてしょっちゅうだった。世界を渡るようになってからも戦いを離れることはなく、化け物と呼んでいいようなものを相手にしたことも多々ある。そんな経験してりゃあ強くもなりますって。
「んー、でもあたし的には、新八もかなり強い方に入るんだけどな」
「お、そうか?まぁ当然だけどな!」
「あとはハル」
「それはどうも」
突然背後から聞こえた声に、勢い良く振り返った新八たちの顔は驚きに満ちている。あたしは殊更ゆっくり振り返って、いつもと同じように微笑む彼に呆れた目を向けた。
「だから無駄に気配消す癖なんとかしなって」
「は、遥架!?お前いつからそこに!!」
「新選組で一番強い人は誰だって話あたりかな」
「ほとんど最初っからじゃん……声かけてくれてもいいだろ、ハルさん」
「麻倉君は気付いていたみたいですよ。鍛え直したほうがいいんじゃないかな?」
「お前の気配悟れるのなんか、土方さん以外にゃコイツと総司くらいだろ、遥架」
「どうでしょうね?君たちもそれくらいにはなってほしいところだけど」
「ちなみにハル的にはどう?一番強いと思う人」
そんなふうに問うてみると、彼は少し考える素振りをしてから、当然のように言った。
「土方さん」
……考えるフリいらなかったんじゃないかって程の自信満々っぷりで。
ハルはイチくんや山崎君と同じように、土方さんへの忠誠心が厚い人だ。盲目的に従っているわけではなく、よく口答えもしてるけど、やっぱり彼が一番強いと思って疑わないらしい。……ま、あの人って実戦では目潰しとか足掛けとか手段を選ばないタイプらしいから、それも間違ってはいないのだろうけど。
「一君も多分、土方さんって答えるよなぁ…」
「総司には聞いたのかい?」
「あいつは近藤さんって答えるに決まってるだろ」
「で、結局誰が一番強いんだ?」
「そんなに気になるってんなら、天下一武道会でも開催すりゃいいんだよ」
結論、戦えばわかる。