今日の食事当番はあたしです。

「夕飯何にするかなぁ……」

昼食を終えて暫く。元の世界にいた頃なら、そろそろ午後のティータイムと称してお気に入りのカフェにケーキを食べに行く時分だ。
夕食の献立によっては足りない食材を買い出しに行かねばならないからと、あたしは境内の掃除をしながら頭を回す。どうするかなぁ、早いうちに使っちゃいたいものあったかな……確か玉ねぎと芋がそろそろ危なかったっけ。

「にゃー」

……なんか今日は猫の鳴き声をよく聞く気がする。猫……あ、魚。そろそろサンマが美味しい季節だし、買ってこようかな。そしたらあとはおひたしを作って…

「にゃー」

味噌汁の具は何がいいかな。うーん、秋だし…ナス?あ、ナスなら確か人数分ギリギリあったかも……それじゃ、とりあえずサンマだけ買って、あとは目ぼしいものを……

「にゃー」

「ぎやああああああっ!?」

突然、背後から抱き締められて悲鳴が出た。悲鳴というか絶叫に近かったけど。竹箒を取り落としたりと、考え事に耽っていたため激しく動揺したけど、少しずつ落ち着きを取り戻していくと同時に、呆れた。
あたしを抱きすくめている腕は見慣れた着物に包まれている。すん、と鼻を鳴らせば嗅ぎ慣れたと言ってもいい匂い。そして耳に届く、猫の……真似事をした声も聞き慣れたもの。何より、この気配。

「……総司。なんか用?」

「にゃー」

「日本語喋れバカ」

そうだった。ここはちょうど、彼の部屋の前だったのだ。
あたしを解放する気のない総司はにゃーにゃー言いながら、くくっと喉で笑っている。

「クライサちゃんってば、僕がいくら呼んでも気付かないんだもん」

「猫語で呼ばれても気付かんて。大体なんで鳴いてたの」

「暇だったから猫になってみたんだ」

「なんだそれ」

話を聞くに、どうやら総司は自室の縁側からずっとあたしの様子を見ていたらしい。それで気まぐれに扮した猫の鳴き声でもってあたしを呼んでいたのだと。考え事で気配を読み損ねていたとはいえ、紛らわしい呼び方をするなっつーに。

「まぁいいや。暇だって言ったよね?」

「うん。なに、遊んでくれるの?」

「残念ー。夕飯の買い出しに付き合ってもらうだけ」

なぁんだ、とわざとらしく肩を落とした総司は、何故かそれでもあたしを解放しない。不思議に思い、振り返り気味に見上げてみると、むやみにキラキラした笑顔に辿り着いた。……この猫、めんどくせぇ。

「クライサちゃんも猫にならない?」

「意味がわからない」

「にゃー」

「言うかバカ」

「鳴いてくれなきゃ放さない」

「実力行使って言葉知ってる?」

「僕に敵うと思ってる?」

「やってみなきゃわからないでしょ」

「やってみてよ。させないけど」

「噛みついていい?」

「舐めてもいいの?」

「……」

「……」

眉を寄せて睨み付けても、総司の笑顔は変わらない。
無言の睨み合いは、第三者の闖入があるまで続く可能性が高い。果たして、あたしの離脱が先か、総司の詰めが早いか。
…………。買い出し、今日中に行けるかな……






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