この刀は、あたしが新選組に保護されることになって少しした頃に与えられたもので、新選組に滞在する間だけ持つことを許された借り物だ。それを「返せ」ということは、いよいよここを追い出されるのか、と覚悟したのだが(ま、それにしちゃ今更だと思うが)。

「てめぇの刀ぐらい、てめぇの目で選べ」

倒した浪士たちを放置して、土方さんたちに連れて来られたのは刀剣屋だった。一緒についてきた千鶴は未だに困惑した顔をしていたけど、あたしは彼らの外出の本当の目的を理解した。彼らは初めから、あたしをこの店に連れて来るつもりだったのだ。

「……」

「なに呆けてやがる。さっさと選べってんだ」

詳しい説明を求めて土方さんに目を向けると、いやに不機嫌な声をぶつけられたから、ちょっぴりたじろぎつつ近藤さんを見る。彼のほうはいつものように少し豪快な笑みで、そもそもの理由を教えてくれた。

「君も今や新選組の一員だ。ならば刀も、君用のものを改めて用意したほうがいいと思ってな」

「……なるほど」

それで土方さんのあの顔か。脇差も合わせて新調してやるとの話だから、その出費を気にしているんだろう。確かに刀は安いものではないが………ケチ。

「なんか言ったか?」

「……いえ何も」

心を読まれた。

とりあえずあたしはその店に置かれたものから、自分に合った刀を大小一組買ってもらった。ケチ副長の不機嫌面の前では正直選びにくかったけど、自分の命を預けるとも言える武器に関しては手を抜くつもりはない。刀の代金分くらいはまたこき使われることを覚悟して、それなりの業物を選ばせてもらった。

そして屯所に帰ってから、あたしは借りていた刀を土方さんに返して、新たに買ってきた一組を腰に差した。脇差の分だけ腰が重くなったけど、昔から足腰は鍛えてきたのでさして問題はないだろう。
さて、話はここからだ。

「お前には、総司の補佐についてもらう」

場所は副長室。厳しい顔をした土方さんと近藤さんを前に、あたしは正座で命令を聞いた。

「補佐?」

「うむ。近頃、総司は体調を崩しがちだからな……君にあいつを支えてもらえれば俺たちも安心出来る」

「と言って、特別に役職を与えるわけじゃあないがな。あいつにはもう話してある」

「……それって、命令じゃなくて個人的な頼みってこと?」

「まぁそんなところだ。どうせ暫く帰る予定はないんだろ?お前さえ良ければ、総司を支えてやってくれ」

新選組隊士と変わらない扱いを受けているとはいえ、あたしはあくまで女で余所者。組長級の役職を与えるわけにはいかないというのはわかる。
だけど、よく巡察を共にしたり稽古で叩きのめしている一番組の面々は、そんなぶっちゃけ正体不明なあたしに、かなり親しく接してくれる。……正確には、なついてくれているって感じだろうか。

「総司が隊務を離れる時は、君が一番組を纏めてやってくれ。彼らも、君の言うことなら聞くだろう」

確かに、いつもあたしに好意的な態度を見せてくれる一番組なら、他の組よりも纏めやすいだろう。あたしに何の肩書きがなくても、勝手に『先生』呼ばわりして群がってくるのだから。

「けどあたし、総司のかわりなんか出来ないよ」

「んなことはわかってる」

些か声を低めて言えば、同じくらい不機嫌な色を含んだ声が返ってきた。おや、と思う。

「あいつの留守を守ればいいって言ってるだけだ。てめぇに総司のかわりが務まるとは思ってねぇし、てめぇも務める気はねぇだろ」

そして厳しい顔のまま続けられた言葉は、多分あたしが期待した通りのものだった。あたしはそこで初めて笑みを浮かべて、土方さんと近藤さんの頼みを承諾した。

「っていうか、なんであたしに頼んだの?」

「お前が一番、総司の扱いが上手いんだよ」

「…あー……」






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