時は慶応元年、雷鳴轟く六月の夜。ここ暫く続いている悪天候に嫌気が差してきたあたしは、幹部の数人が集まる広間で暇を潰していた。
日本の『梅雨』というものは、何度経験しても一向に慣れやしない。っていうか別に慣れたくないし。雨なんか嫌いだ、大っ嫌い。

悪天候のせいで島原に出かけるわけにもいかない左之・新八・平助は、その広間で酒をチビチビやっている。総司もあたしと同じように暇を持て余していたのだろう、酒は飲まないまでも男たちの輪には入っている。あたしはそんな彼らの会話に耳を傾け、時折投げかけられる問いに答えを返したりしていたのだが。

「っ!」

障子戸の向こうに走った稲光、そして直後に響き渡る雷鳴に、身を震わせた彼女があたしの腕を引っ張った。

「……」

そしてそれに気付いてこちらに注目する野郎ども。

「んだコラ見てんじゃねぇ」

「うわガラ悪!」

「そんな睨むことないだろ……」

大袈裟に身を引く平助と苦笑する左之エトセトラ。男どもを牽制してから、あたしは左腕に抱きつくようにしてあたしに身を寄せている少女に顔を向けた。ギュウと目を瞑り、小さく震えながらあたしにしがみつく彼女は、何と言うか、まぁ。

「可愛いよねぇ、千鶴ちゃん」

「……総司、いじめっ子の顔してるよ」

「えぇ、心外だなぁ」

夜闇に雷光が走るたび、轟音が響くたびに怯えて小さくなっていく千鶴は、雷が鳴り始めた夕食の後くらいからあたしにくっついて離れようとしない。いや別に、邪魔とかではないんだけど。むしろ可愛いし(総司と違って純粋にそう思うのだ、あたしは)。
とりあえず薄暗い部屋に女子二人っきり、よりはそれなりに明るい部屋に大勢でいた方が心強いだろうと思って、自室からここまで連れてきたんだけど。……いちいちこっち見る野郎どもの目が結構鬱陶しい。

「雷が怖いなんて、やっぱり千鶴ちゃんも女の子なんだね」

「あんま触れないでやんなさいって。……まぁ聞こえちゃいないみたいだけどさ」

また雷が鳴る。よりしがみついてきた千鶴の震えが増す。なんかチワワっぽい。

「っていうか、なんでいちいちこっち見るの」

「いやぁ、だって可愛いし」

「総司は黙れ。」

「仕方ねぇだろ。男所帯的には女の子のそういう反応見るって事自体貴重なんだし……なぁ?」

「いや、オレは純粋に千鶴を心配して……」

「やっぱ女ってのはこうじゃなきゃな。守ってやりたいって思えるしよ」

新八、平助、左之のそれぞれの意見を聞いてみて、溜め息が出た。まともっぽいのは平助くらいかな……

「ってか左之。それ、あたしが女じゃないみたいな言い方だね」

指摘すると、腹の立つことに、残りの三人までもが彼に同意しやがった。

「まぁ確かに、クライサちゃんって守られる子ではないよね」

「雷は全く怖がらねぇし、幽霊の類いも信じてねぇみたいだし……」

「刀持たせりゃ、総司や一君と渡り合えるくらい強いし」

「はっきり言って、守り甲斐ないっつーか…可愛いげがねぇよな」

「うわ、それリアルに傷つく」

そんなこと言われても、守られるのなんて性に合わないんだから仕方ないじゃないか。かゆい。かゆくてたまらない。
まぁ別にいいけど、全く女扱いされてないと改めて聞くと……あ、訂正、やっぱりよくない。ちょっと悲しい。
だけど、あたしにしがみついたまま、怯え疲れて眠ってしまった千鶴を目にしたら、そんな悲しみもすぐに飛んでいった。

「へっへーんだ!いいもん、あたし、千鶴に攻略してもらってグッドエンディング迎えてやるから!麻倉エンディングも作ってもらうから!」

「なんかよくわかんねぇけどやめとけ麻倉!!」

「俺らが悪かったから早まるなよくわかんねぇけど!!」

「あ、なんだよクライサ、オレだって負けねぇぞーよくわかんねぇけど」

「じゃあ僕そろそろ部屋戻るね。君たちも土方さんに見つからないうちに帰ったほうがいいと思うよー」






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