天気は快晴、気温もそれなりで過ごしやすく、これといった仕事も事件もない午後の一時。これはもう昼寝するしかないと、人気のない境内に寝転がったあたしは、耳に届いた怒鳴り声に早速機嫌を損ねた。
「左之さん、そっち行ったぁー!」
平助だ。続いて左之、新八の声が聞こえてきて、一緒にイチくんや総司、千鶴もいるらしいことを知る。声と気配はどんどん近付いてきて、一体何事かとあたしが目を開けた時、
「にゃーん!!」
上から猫が降ってきた。
「あ、クラちゃん!」
「クライサ、そいつ捕まえてくれ!」
いや、捕まえるも何も。
仰向けに転がっていたあたしの顔面に腹をくっつけるようにして落ちてきた猫は、腹立たしいことに何故だかそこから動こうとしない。どけよ。
近くまで平助たちがやって来たのを感じて、あたしは体を起こしながら猫を掴み、顔から引き剥がす。そして
「こんのアホンダラァ!!」
「おぶぅっ!?」
にゃーん!とあたしに投げられた猫を顔面でキャッチして、平助は後ろに倒れた。そして華麗に着地した猫はまた逃げ去っていく。
左之と新八、イチくんは逃げた猫を再び追いかけ始めて、千鶴に起こされた平助もそれに続く。あたしは関わる気も興味もなかったから追いも止めもしなかったけど、
「総司」
ただ一人、彼だけは呼び止めた。
「アンタ何してんの。今日は部屋で寝てろって土方さんに言われたでしょ」
「……クライサちゃんまで、山崎君みたいなこと言わないでよ」
ここ暫く、総司は風邪を引いているようで気付くと咳をしている。彼自身は大したことではないと思っているらしく、土方さんを心配性の過保護扱いしているけど、どうもあたしにはそう思えなかった。
「あのね、アンタが外で咳すると、空気中に風邪の菌がばらまかれて周りにも害を及ぼすの。風邪は人にうつるもんなんだから」
「やだなぁ、その病原菌扱い」
「嫌なら部屋で大人しくしなさいって。一人じゃつまらないってんならあたしも行ってあげるから」
その申し出に、意外だったらしい総司は目を瞬いた。しかしすぐに、よく千鶴に見せるような、意地の悪い笑みを浮かべる。
「なに、添い寝でもしてくれるの?」
「枕元で延々リンゴの皮剥いてあげるよ」
「……それはちょっと嫌かも」
ちょっとだけ眉を寄せて、それでも総司は笑う。
その笑顔が不安を呼ぶ理由を、その時のあたしはまだ知らなかった。