鬼とかいう連中に狙われるわ、父親の行方は相変わらずわからないわ、最近の千鶴は考え込むことや落ち込むことが多くなった。無理もないだろうけど。
それでも人前ではそんな姿を見せようとしないのだから、健気というか何というか。
「いい子だよねぇ、千鶴」
「……なんでオレに言うんだよ」
境内の石段に座っている千鶴を眺めながら、物陰に隠れてそれを見ている平助に言った。千鶴にはバレてないだろうけど、さっきから通りかかる隊士たちに冷たい目を向けられてるよ、平助。
「え、同意してくれないの?そっかぁ、平助は千鶴のこと嫌いなんだぁ、へぇ、そうなんだぁ」
「なっ!?嫌いなワケあるか!!むしろ…ッ」
「むしろ?」
「……っ!!」
青い春だね。とか年寄りくさく思いながら、真っ赤に顔を染めて口をパクパクしている平助を眺めた。なんてわかりやすい。
彼が先程から千鶴の様子を窺っているのは、別にストーカー目的なわけではない(端から見てりゃそう変わらないだろうけど)。落ち込んでいる千鶴を彼なりに励ましてやろうと思って、その方法を考えているのだ。
「それで、いい加減何か浮かんだ?」
「…………」
「ま、浮かんだところで他の人に先手打たれちゃ意味ないけどさ」
これまでに近藤さん、イチくん、山崎君、総司、土方さんなどが千鶴の前に現れ、多分みんな平助と同じ気持ちで彼女に構ってやっていた。声をかけてやったり、仕事を頼んでみたり、巡察に連れて行ってやったり……いやぁ、千鶴は愛されてるね。ここにも彼女のためにアレコレ考えてる奴がいるんだし。
「何か贈り物とかすれば、アイツ喜んでくれるかな……クライサなら何もらったら嬉しい?」
「金?」
「……お前に訊いたオレが馬鹿だった…」
「冗談だよ。そうだなぁ……簪とかあげれば?今は無理だけど、男装しなくて済むようになってからなら使えるし」
「簪……そっか、ありがとな!ちょっと小間物屋行ってくる!」
と、元気に走り去っていった平助を見送って溜め息が出た。ああ、やっぱ新選組って過保護と心配性の集まりなんだな……
「……いや、それだけ千鶴がいい子だってことか」
「そういうことですよ」
ぽつりと溢した独り言に同意があったことにも大して驚かず、あたしは背後に立つ人物に振り返る。
「無駄に気配消すのやめてよね、ハル」
「癖なんでね。土方さんがお呼びですよ、麻倉君」
「はーい」
呼び出しの内容を考えながら立ち上がると、その間に千鶴のほうを見たハルの口に笑みが浮かぶ。その視線を追えば、今度は左之と新八が彼女に声をかけていた。
「ほんっと千鶴に甘いよね、みんな」
呆れ混じりに呟くあたしを、ハルは更に笑みを深めて見下ろす。
「そう言う君もね」
「あたしは別に普通でしょ」
「夜の巡察にも同行して、綱道氏に関する情報を集めていると聞きますが?」
「散歩のついで」
そう、みんな甘いのだ。……もちろんあたしも含めて、ね。