新選組は将軍様が二条城に入ってから、そのまま城周辺の警備にあたった。クラちゃんは今も警備隊のほうにいて、先ほど伝令に走ってから暫く顔を合わせていない。
伝令なんて警備に比べれば楽な仕事なのかもしれないけど、終始走り回っていたらさすがに疲れた……

「!」

一旦休憩、と足を止めた時だった。背筋に冷ややかなものが走る。その感覚は、私が新選組に身を置くことになってから、幾度も感じた記憶があるものだ。ーー殺気。
半ば反射的に振り返れば、人目も届かないような城の陰、暗闇の間近に三人の男が佇んでいた。

「……気付いたか。さほど鈍いというわけでもないようだな」

風間千景、天霧九寿、不知火匡。池田屋や禁門の変で新選組の前に立ち塞がった、薩摩や長州と関わりがあるらしい男たち。
『鬼』と名乗った彼らは、私を探していたのだと言った。……私を『同胞』とも。

「……言っておくが、お前を連れていくのに、同意など必要としていない」

鬼なんて知らない。雪村の姓や小太刀が、私が鬼である証明だと風間さんは言うけれど……そんなこと、到底信じられない。

「女鬼は貴重だ。共に来い」

だけどそんな否定は受け入れられなくて、有無を言わさぬ瞳で私を見る風間さんの手が、私を闇へ引きずり込むように伸びてくる。
金縛りに遭ったように動かない体。恐怖のあまり声も出せず、城を警備する隊士たちに助けを求めることも出来ない。風間さんの手が私の腕を掴もうとした、その時、視界の端に月光を弾く刃が映った。

「大の男が女の子怖がらせて何やってんの」

私と彼の間に踏み込んだ影が、風間さんが刀を抜くよりも先にそれを振るう。鋭い斬り上げに風間さんは舌打ちして、後方へと大きく退いた。なおも刀を構えたまま、その人は私を背に庇うようにして立つ。浅葱色の羽織。小柄な背中。青空を映したような、短い髪。

「クラちゃん……!」

肩越しにこちらを見た彼女の笑顔に、安堵で涙が出そうになった。

「……邪魔だ、小娘」

「なんだ、誰かと思えばアンタ……池田屋で総司に一発入れた奴か。風間とか言ったっけ」

風間さんと真正面から睨み合ったクラちゃんは、笑みを潜めてから、他の二人にも視線を向ける。

「そっちは平助の額を割った奴だね。確か、天霧って名前だったかな」

「……出来ればその件は、水に流していただきたいのですがね」

「それはあたしじゃなくて本人に交渉して。んで、そっちのは左之が言ってた……えーと」

「オレ様か?オレ様は不知火匡様だ」

「しらぬい?うん、しらない」

「うるせぇよ!!」

「まぁ何でもいいけど……アンタたち、覚悟は出来てんだろうね」

またクラちゃんの顔に笑みが戻る。だけど全く笑っていない目はとても鋭く、まるで氷みたいに冷たかった。






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