将軍様の上洛にあたり、その道中の警護を新選組が担当することになった。そうそう危険な目には遭わないだろうからと、私も(主に伝令とか使いっぱしりだけど)参加させてもらうことになり、今はその準備で皆忙しくしている。でも新選組にとっては晴れの舞台とも言えるから、特に近藤さんは忙しいながらもそれ以上に嬉しそうだった。

私も出来る限りのお手伝いをしていたけれど、ふとクラちゃんの姿が見えないことに気がついた。自室にいるのかな。彼女も今回は参加すると聞いていたから、今何をしているのかと思ってクラちゃんの部屋を訪ねることにした(屯所が広くなったおかげで一人部屋をとれるようになったのだ)。

「クラちゃん、入るよ?」

中からの返事を待ってから戸を開ける。そこには彼女の他に、風邪気味だからと土方さんに屯所待機を命じられた沖田さんと、同じく調子が悪いと言っていた平助君がいた。寛いでいる様子の沖田さんと平助君に一礼だけして、私は部屋の中心に立つクラちゃんに目を向けた。……いや、目を奪われた、と言うべきかもしれない。

「……クラちゃん……」

「どう?」

彼女が纏っているのは浅葱色の羽織。新選組の隊服だ。その姿は、今も部屋の外を駆け回っている隊士たちと同じで……

「似合ってる……カッコいいよ!」

彼女も隊士のように見える。しかし何故そんな格好をしているのかと問うと、クラちゃんは何故か少し嫌そうな顔をした。

「あたしも警備の方に参加することになってるからさ、隊士の中に一般のガキが混じってたら格好がつかねぇだろ、って土方さんが」

「伝令が仕事の千鶴ちゃんとはまた違って、警護は将軍の目にもつくからね」

「実際、隊服着てたほうが動きやすいこともあるだろうしなぁ」

……つまるところ、クラちゃんにとってはあまり喜ばしいことではないらしい。似合ってると思うんだけどな……

「ま、とりあえず仕事はちゃんとやるさ。そろそろ時間だよね、千鶴」

「あ、うん」

そう促されて部屋を出ようとしたところで、沖田さんがクラちゃんを呼ぶ。彼女は不思議そうにしながら振り返って、同時に目の前に投げられた刀を反射的に受け止めた。

「それ持っていって。お守り」

「……随分デカくて重いお守りだけど」

それは沖田さんの脇差だった。クラちゃんは意図を探るような目を向けるけど、沖田さんは相変わらずにこにこ笑っている。

「打刀一本よりは、脇差があったほうが格好がつくでしょ?今回だけ貸してあげる」

「……」

クラちゃんは暫く黙った後、じゃあ借りとく、と言って笑顔を返した。そして平助君に手を振り返して、今度こそ部屋を出ていく。いつもとは違ったその背中を、二人に挨拶をしてから私も追った。






back






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -