山南さんは死んだ、ということにされた。
『薬』の件は平隊士にも伊東にも秘密にしなければならないからと、彼自身がそう提案したのだ。山南さんは今のところ狂った様子はないので、薬の成功例として『新撰組』を率いていくらしい。

……それはそうと、新選組って過保護の集まりなのではないかと思うようになった。

「まったく……君はなんでこう人の言うことを聞かないのかな」

「えー?総司には言われたくないよ」

猫を持つように襟首を掴まれ、ぶらぶら揺れている足は床からだいぶ離れている。完全に『運ばれている』図だ。右手だけであたしの体を持ち上げている総司は、悔しいが全く苦もない様子で屯所の廊下を歩いている。この角度で人を見るの、実は今日三回目である。

「左之さんにも土方さんにも注意されたんでしょうに。往生際が悪いというか何というか……」

「大袈裟なんだよ、みんな。大した怪我じゃないって」

「じゅうーぶん大した怪我だと思うよ」

朝ごはんの支度を手伝おうと勝手場に入ったら、食事当番の左之に襟首を掴まれて自室に連れ戻された。なら洗濯でもしようかと部屋を出たら、廊下を歩いている途中で会った土方さんに襟首を以下略。
総司に見つかったのはさっき、道場で平隊士たちと一緒に稽古をしている時だった。

……ちなみに平隊士もあたしの存在は知ってるし、性別もほとんどの者が気付いているだろう。ただし幹部連中は詳しく説明しないし、あたしも付け入る隙を見せないから、彼らの認識は『わけあって新選組滞在中の子ども(腕利き)』程度だが。
前に道場で総司と打ち合っているのを見せたから、よほどのバカでない限り余計な手出し口出しはしてこないだろう(沖田総司と渡り合える人間を敵にしたくはない…っていうかむやみに触れたくないだろうから)。まぁ、新選組に女がいるって外の人間にバレるのはまずいから、男装は続けてるけどね。

「本当は土方さんの部屋に持って行きたいところだけど……」

「わお。完全に物扱いだね」

「屯所移転の件で忙しいみたいだから、別の人に頼もうかな」

そう言う彼が向かっている先は、もう既に予測がついている。目的地に着いたことで足を止めた総司は、障子を開けると同時に中へとあたしを放り投げた。

「帯刀さん、暫くこの子預かってくれないかな」

強かに打ち付けた頭を擦りながら体を起こせば、そこはやはりハルの部屋で(っていうか総司、手の怪我は労るくせに何故投げる)。文机に向かっていた部屋の主は総司に振り返っていたけれど、微笑むその顔に驚きの色はなかった。まるであたしたちが…というより総司があたしを持って来るのがわかっていたように。だったら受け止めるとかしてくれ。

「なんだ、また抜け出してたのか。懲りないね」

「そう。巡察から帰ったら引き取りに来るから、それまでお願いしてもいいですか?」

「承知しましたよ。気をつけて行っといで」

「はい、行ってきます」

あ、ヤバい、この部屋が託児所に見えてきた。
さっさと踵をかえして行ってしまった保護者を見送ってから、あたしは目の合った保父さんに溜め息をつくのだった。






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