「クライサちゃんって、意外にバカだよね」
あたしの目線に合わせるようにしゃがんだ総司は、こんな失礼なことを言った。
「何それ。バカ正直とでも言いたいの?」
「間違ってはいないかな」
あたしはムス、と頬を膨らませてそっぽを向く。あたしが正座させられている広間には、総司以外に誰もいなかった。
そう、あたしは正座させられている。そういう罰を与えたのは土方さんで、そうさせたのはあたしなのだ。
「まさか伊東さんに正面からぶつかってくなんてね。見てるほうは面白かったけど」
と、言葉通り楽しそうに、総司はけらけらと笑った。あたしの臍は曲がるばかりである。
隊士募集のため江戸に向かった平助が声をかけ、近藤さんが連れてきたのは伊東甲子太郎という剣客だった。奴はいい年した男のくせに、気色悪くて回りくどい、そして女みたいな口調で喋るオカマ野郎なのです。思わずキモいって口走っちゃっても不思議じゃないレベルには。
「なーんであたしが叱られなきゃならないんだか……」
「それは仕方ないよ。あの人、あれでも一応参謀なんだし。お咎め無しにしちゃったら、局長副長の面目が立たないでしょ」
「いっそ幻滅して出ていってくれると有り難いんだけど」
「あはは、それは同感」
そんなわけであたしがここに座らされているのは、あたしが伊東を紹介された時に、面と向かって思いっきり『キモい』と言ってやったことが原因なのだ。
その後も「なんですか、この無礼な子どもは!」とか何とか喚いている奴に、侮蔑の意をたっぷりと込めた言葉をぶつけてやると、奴はすぐにキレた。っていうか『キモい』って通じるんだね。
ヒステリックに喚く奴を宥めたのは近藤さんで、土方さんですら謝罪していたけどあたしは後悔していない。結果的に罰を与えられはしたけれど、大幹部に対して無礼を働いたわりには軽いほうだ。見張りに総司を置いたという点でも、土方さんは怒ってはいないということがわかる。現に、彼はあたしに罰を与える際も苦笑しただけだったのだ。あたしと同じ思いを少なからず抱いていたからだろう。
「とはいえ、この足の痺れがあいつのせいだと思うと腹立ってくるなぁ……」
「君ってホントに正座苦手だよね」
「正座と座禅はあたし大っ嫌いなの!あームカついてきた。総司、あとで道場で一本やろう!いや、二本!」
「はいはい、二本でも三本でも付き合いますよ」
さて、これから暫くは足の痺れとの戦いだ。これがツラいんだよね、下手な怪我よりも。
……それにしても、新選組は大丈夫なのかね、あんなの迎え入れて。
「いいもの運んでくるとは思えないんだけどなぁ……」