「ねぇハルー、この間作ってた煮付けの作り方教えてよー」

畳にうつ伏せに転がっていたクラちゃんは、肘の辺りについた畳の跡を指で撫でながら、もう一方の腕で顎を支える。

「いつの?」

「三日前くらい?左之と平助が晩ごはんの当番だった時。ハルも手伝ったんでしょ?」

「ああ、あれか」

帯刀さんは幹部の隊服を、皺の一つもつけないような手付きで丁寧に畳んでいく。私も畳んでいた手拭いを脇に寄せると、先程取り込んだ洗濯物の山からまた別の手拭いをとって膝の上に乗せた。今日は雲一つない良い天気だったから、どれもすっかり乾いている。

「次にオレの当番が回ってきた時に教えてあげますよ」

「えー、次って来週じゃん。別に口頭でいいのに」

「作りながらのほうが教えやすいんです。君の当番の時にすると、前回からそれほど日が空いてないし、飽きられてしまうからね」

「……絶対だよ」

「約束は守りますよ」

帯刀さんは機嫌の良さそうな笑顔をクラちゃんに向ける。そうすると、クラちゃんは納得せざるを得ないといった顔になって目を逸らし、小さく頷くのだ。
クラちゃんは帯刀さんの言うことだけは、驚くほど大人しく聞く。もちろん今の会話のように反論することもあるけれど、最終的には彼の言葉に従っているのだ。それは帯刀さんの穏やかな人柄や、柔らかい口調が理由になっていると思う。

「……」

ふと、帯刀さんが顔を上げた。私たちのどちらを見るでもなく、彼の視線は廊下に面した障子戸に向けられている。畳の上に転がったままのクラちゃんも首を傾げていて、私がどうしたのかと帯刀さんに尋ねようとするのと、戸の向こうから足音が聞こえてくるのは同時だった。

「遥架ぁ!麻倉見てねぇか!?」

そして乱暴に開けられた障子戸から現れたのは、かなり不機嫌な様子の土方さん。私は反射的に身を引いてしまったけど、帯刀さんは全く動じた様子もなく、先程と同じように洗濯物を畳みながら視線だけである箇所を指した。

「先程までそこに」

「え、あれ、クラちゃん?」

「ちっ、逃がしたか」

帯刀さんの目は横たわる彼女に向けられた筈なのに、そこには既にクラちゃんの姿はなかった。そして背後の襖が開いていることに遅れて気付く。……いつの間に出ていったんだろう。

「今度は何を?」

「あのガキ、俺の部屋の前に水いっぱい入れたタライ置いていきやがった」

「ああ、それで」

帯刀さんの視線を追って、土方さんの足元に目を向ける。……あ、袴の裾が濡れてる。

「可愛いものじゃないですか」

「可愛いもんかよ。ったく、総司と一緒になって毎日悪戯に励みやがって……」

「あの子も不安なだけですって。取り返しのつかない事態は起こさないだろうし、いちいち目くじらを立てていてはもちませんよ」

「……わかっちゃいるんだがな」

やれやれと溜め息をついて、土方さんは部屋を出ていった。クラちゃんのことは諦めて自室に戻ったんだと思う。

「あの人がああやって反応するから、彼女も総司も調子に乗るんだろうけどね」

帯刀さんの呟きに、私は苦笑という名の同意をした。






back






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -