季節が変わっても、未だに元の世界に繋がる道を作り出せていないあたしは、相変わらず屯所にいます。そんなわけで秋です。秋といえば食欲の秋です。食べ物が美味しい季節です。
「で?なんでお前らまでついて行ったんだ」
「美味しいお酒を奢ってやるって新八さんが言ったので」
「美味しいご飯奢ってやるって新八が言ったから」
ごく端的に嘘もなく言えば、正面に立つ土方さんの顔が呆れに歪む。
広間にはあたしと総司の他、左之に新八、平助がおり、皆一様に正座させられて鬼副長に見下ろされている。その原因は、あたしたちが島原に遊びに行っていたから。左之たち三人は割りと遊びに行く回数が多く、いつも見てみぬ振りをしていた土方さんだけど、あたしと総司がそれに加わったこともあって、我慢の限界がきてしまったらしい。
「ちょっ、お前ら、俺のせいにする気か!?」
「嘘は言ってませんよ?」
「それで一緒になって朝帰りか?いい身分じゃねぇか、なぁ麻倉?」
「秋はご飯が美味しいんです」
「んなこたぁどうでもいいんだよ!」
すっかりオカンムリな土方さんの怒りはなかなか鎮まってくれないらしい。そろそろ足も痺れてきたので、どうやってこの場を切り抜けようかと考えていると、広間に二つの人影が入ってきた。
一方は隊士らしい若い男。赤茶色の髪を短く切り揃えた彼が浮かべる微笑みは、山南さんのそれと違って上辺だけのものじゃないことが見てとれた。もう一方は千鶴だ。何かカゴのようなものを抱えて男の後ろを歩いている様から、彼の手伝いをしているのだと窺える。
「誰あれ」
見覚えのない男の姿に呟きじみた問いを溢すと、隣に座る総司が答えをくれた(既に正座じゃなくなっている。さすが総司だ)。
「帯刀さん。……そっか、クライサちゃんはまだ会ってなかったんだね」
「タテワキ?」
総司の説明によれば、彼の名前は帯刀遥架(たてわきはるか)というらしい。山崎君や島田君と同じ監察方で、ここ暫く屯所を離れて綱道氏(千鶴の父親)の捜索をしていたらしい。
そうこうしている間にも土方さんと彼の会話は交わされて、ふと土方さんの顔に呆れに似た苦笑が浮かぶ。帯刀という彼はニコニコと笑むだけだ。
「総司、そいつ連れて帯刀について行け」
「はーい」
どうやらあたしたちを説教から解放するきっかけを作ってくれたらしい。彼は人の良さそうな笑みを一度こちらに向けて、千鶴を連れて広間を出ていった。土方さんの命令に笑顔を返した総司はすぐに立ち上がり、おいで、と言ってあたしを立たせる。
「名目は何かのお手伝いかな。多分クライサちゃんに挨拶したいだけだと思うけど」
「うん。あたしも興味あるから有り難いや」
「じゃ、あとでお礼言わなきゃね」
説教と正座から離脱させてくれた好意にお礼をして、初対面の彼と挨拶をして。ーーきっとかなり強いであろう彼と手合わせ出来たなら、とは言わなかったけど、総司には見抜かれていたようだった。