張り詰めた、肌を刺すようなピリピリとした空気。殺気とも言うべきそれも、たまになら心地良いと思うあたしはやっぱり戦闘狂なのだろう。
これを味わうなら、相手はやはりイチくんがいい(イチくん、というのは新選組三番組組長、斎藤一のことだ。『はじめ』が漢数字の『一』だから、あたしはこう呼んでいる)。総司もなかなかいい殺気をくれるんだけど、あいつのは必要以上に物騒だから。あいつとは浪士とやり合う時に組むのが一番楽しい。

イチくんは手を右差しにした刀の柄に添えながら、それを抜かぬまま構えている。彼は達人クラスの居合いの使い手で、並の人間では彼が刀を抜いたことにも気付かぬまま斬られてしまう。その腕前は、本当に称賛に値する。
あたしの腕では彼の居合いを凌ぐことは出来ない。千鶴やみんなはあたしが彼や総司と肩を並べる刀の使い手だと思っているみたいだけど、本当はあたしではまだまだ足りないのだ。刀だけでいえば、幹部連中にも敵わない。本来ならあたしはこんな長い刀でなく、短剣の二刀使いで、更に言えばあたしの職業は剣士でなく錬金術師。剣の扱いは心得ちゃいるが、殴る蹴るの大暴れのほうが性に合っているのだ。

その時、研ぎ澄まされた殺気が一瞬だけ、更に鋭くなるのを感じて同時に動いていた。
半ば反射で屈んだあたしの頭の上を、銀色に輝く刃が過ぎる。短くした髪の先ぐらいは持っていかれただろうか。思いながら、さして気にも留めずに掬い上げるようにして右手の刀を振り上げれば、先の一振りから帰った刃がそれを弾いた。

「……っ!」

やっぱり、重い。イチくんの腕は、新八のように筋肉が目に見えてついているというわけでもないのに。やはり単なる腕力でなく、力の入れどころというのを完全に把握しているのだ。
少し悔しくなったので、受け止めた刀を、刃を返して受け流していく。凄腕の剣士である親友の真似事だけど、プロにも通用する腕だと自負している。

「……くっ……」

隙をついて反撃に出ると、受け止め防いだイチくんの顔が微かに歪む。胸の内で小さくガッツポーズしたその時、

「麻倉ぁ!!」

「ひぎゃあ!!?」

イチくんの向こう側から、突然木刀が襲来した。切っ先を慌てて刀の峰で逸らしたが、凄まじい勢いに負けて刀を床に落としてしまう。反射的にそれを拾いに走ったあたしの前に、立ちはだかる鬼の形相。

「…………土方さん」

「よう。こんなところで何をやってんだ、麻倉?」

引き攣った笑みを浮かべて顔を上げれば、暗い笑顔に行き着いた。鬼の形相よりこっちのほうがよっぽど怖いよ!無駄だと知りつつ助けを求めようとイチくんの姿を探すと、彼は道場の隅で他人の目をしてこちらを見守っていた。うん、役立たず。

「何って稽古ですよ。道場で料理はしないでしょ」

「総司みたいなこと言ってんじゃねぇ!!テメェに任せた仕事があった筈だろうが!!」

「仕事ー?」

「あの馬鹿が勝手に部屋から出ないよう見張っとけっつっただろう!!」

「そうだっけ?」

「……わかった。そんなに稽古したいなら、俺が直々に相手してやる」

「(あ、やりすぎた)」

完全実戦型の土方さんと剣を交えられるのは嬉しいが、これだけ怒りに満ち充ちている彼を相手にしては、もしかしたら殺されるかもしれない。
一般人には冗談にしか聞こえないだろうことを思いつつ、勝手に部屋を出たらしい総司を恨めしく思った。






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