今の新選組は、外も中もバッタバタだ。

「やっほ、平助」

先日の風間による襲撃によって大きく人員を削られた羅刹隊の部屋は、彼らの活動時間帯である深夜にも関わらずがらんとしている。
ひとり、そこを訪ねたあたしの姿に、平助は大きな目を真ん丸にした。

「クライサ、お前、何しに来たんだよ!?」

「昼間におつかいで出掛けたから、ついでに三國屋でお団子買ってきてさ。そのおすそ分けに来たんだけど、お団子嫌い?」

「いや、好きだけど……」

戸惑う平助に構わず適当なところに腰を下ろし、こいこいと手招きしてから隣を叩く。平助は仕方無さげに溜め息を吐き、観念した様子であたしの隣に座った。

「物好きだよなぁ」

「よく言われる」

何を話すでもなく、静かな空間でただお団子を食べる。沈黙は、だけど苦ではなかった。お互いの呼吸を隣で感じながら、一本、二本と串を置く。



平助が変若水を飲んだことで、より羅刹に反対を示すようになったのは新八だった。

『そりゃあ俺だって、平助に死んでほしいわけじゃねえけどよ……でもだからって、あんな方法で生かすなんてのは残酷だと思わねえか?』

こういう職である以上、相手を斬ることもあれば自分が斬られることだってある。それを承知で、みんな腰に大小をぶらさげているのだ。

『だからって、ここはよ……死ぬことも許されねぇのか』

羅刹は人道的でない。新八は“いい奴”だから、そういったことを正面から非難出来るのだ。ただ、感情的になりすぎてしまうのが欠点だけれども。
左之は、新八の言いたいこともわかる、と言う。だけど羅刹を羅刹と見るのでなく、個人として見れば……たとえば平助は、羅刹となっても平助だった。もちろん昼間に起きられないという点はあるけど、彼自身は以前と何も変わらない。

『たとえ何になろうとあいつらは俺らの仲間だろ。別にあいつらは何一つ変わっちゃいない。話して動いて笑って、冗談言って……とりあえず生きてりゃ、楽しいことはたくさんあるからな』

“生きていれば、楽しいことはたくさんある”
死んだことになっている羅刹にも、それは当てはまるのか。言った本人も悩んでいたけど……あたしは、当てはまると思ってる。だって、少なくとも、今隣にいる平助は、生きているのだ。普通にあたしの名前を呼んで、普通に喋って、普通にお団子食べてるのだ。これで死んでるって言われてもって感じ。

(生きてるよ)

だって、死んでいたら、友達にも、好きな人にも、永久に会えないんだ。



「なぁ。お前と総司って、あれからどうしてるんだ?」

………………。
………………はぁ。

「え、なんだよその溜め息!」

「ねぇ…アンタも千鶴もバカなの?バカか。バカだね」

「な、バカバカ言うなよ!なんなんだよ一体!?」

「バカでしょ。自分だって結構な境遇のくせに、ひとの心配ばっかしやがる」

呆れ満載の顔してそう告げてやれば、平助はうっと詰まり、だってさ、と小さく呟く。その先は音にはならず、口がもごもご動くだけだ。
そんな平助に対するあたしの反応は、千鶴の時と同じ、溜め息を吐きつつも笑みを浮かべる。しょうがないやつだな、って、眉尻を下げた笑み。

「どうもしないよ。前といっしょ。普通に話すし冗談も言うし」

総司も他の羅刹たちと同じように夜に起きてくるから、顔を合わせる回数は減った。でも、たまに会う時は普通に会話する。そういった場は何度か平助も見ている筈だ。

「普通って…」

「普通だよ。目を合わせてくれないだけで」

笑顔のまま言ったら、平助はやっぱりって顔をして俯いた。

すごいよ。普通にクライサちゃんって呼んでくれるのに、話だってするのに、徹底して目を合わせてくれないんだ。嫌でもわかる、拒絶のしるし。

「すっかり嫌われちゃったなぁ……ま、あたしが悪いんだけどさ」

総司の拒絶は当然のものだろう。
彼の最も嫌う理由で、彼のそばに居座っていたのだから。少なからず気を許してくれていたのに、あたしはそれを裏切った。
居心地良く感じていた、彼の隣という居場所を失ったことは、寂しいけれど、自業自得と思えば文句も言えない。

「……や、総司の態度、嫌ってるっていうかさぁ……」

拗ねてるって感じじゃね?

暫し黙っていた平助が口を開いたかと思えば、そんな馬鹿げたことを言うので、その頭をぶん殴ってみた。

「…ってぇな!いきなり何すんだよ!?」

「はぁ……そこまで能天気に出来てる頭だと、いっそ羨ましいよ……」

「能天気って…あのなぁ、一応お前よりオレのほうが総司との付き合い長いんだからな!」

「そりゃわかってるよ」

わかってるけど、それは納得するには難しい直感ではなかろうか。
あの態度を“拗ねた”ものと取るには、ちょっと思考がポジティブ過ぎなきゃならないと思う。

「……ま、でも、ちょっと肩の力抜けた。ありがとね、平助」

自然と浮かんだ笑顔で彼の肩を叩けば、平助は不服そうな顔をした。



その数日後、王政復古の大号令が下される。
王政の復古。それは朝廷が政治を行う、武士の時代が始まる前の姿に還るということ。幕府が、将軍職が廃止され、京都守護職や京都所司代までなくなってしまうというのだ。

新選組の信じてきたものが、大きく音を立てて崩れ始めようとしていた。






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