向けられた刃。今更それを恐れるわけがなく、あたしの刀は相手の肩を切り裂いた。飛び散る鮮血。それがとても懐かしいものに思えて、同時に思い知った。あたしは、もう、

「悪かったな、巻き込んで」

背後から歩いてくる気配に振り返ると、苦笑する左之の顔が目に入る。
外の空気が吸いたくなったので十番組の巡察についてきたところ、先日の池田屋事件で仲間を新選組に殺されたという浪士に襲われた。左之の横を歩いていたあたしもそれに巻き込まれ、応戦した結果、ほとんど時間もかけず浪士たちは倒れることとなった。死人はとりあえず出ていない。隊士たちが捕らえた浪士を屯所へ連れ帰っていくのを眺めながら、左之の言葉に首を振った。

「別に謝る必要ないよ。こういうことがあるって承知でついて来たんだから」

「そりゃそうかもしれねぇが、」

「それに、あたしだって池田屋の件には無関係ってわけじゃないんだし」

「……まぁな」

腰に差した打刀を見下ろして言えば、左之の顔が微かに曇る。
あたしの希望に応えて、土方さんが刀をくれたのは少し前のこと。ここにいる間だけ貸してやる、だから大切に扱え、手入れを欠かすな、と延々言われ続けたので正直使いづらいのだが。本当は脇差くらいの長さのものを二本欲しかった、とはあの不機嫌面を前にしては言えなかった。

数日前、新選組が池田屋に討ち入ったあの事件の際、あたしも現場にいた。四国屋に向かった土方さんたちのほうが本命だと思っていたから、池田屋のほうは人手が足りなくて、千鶴でさえ伝令役を務めるほどだったのだ。
あたしの役目は千鶴の護衛。怪我人の手当てのために池田屋に踏み込んだ彼女を守るために、長州藩の浪士を何人か斬った。殺しはしなかったけど、あの場で刀を振るったという事実は変わらない。

「だが、お前みたいなガキに刀握らせんの、やっぱ俺は嫌なんだよ」

苦々しく笑った左之の手があたしの頭に置かれる。ポンポンと軽く叩くような動作とその表情に、元の世界であたしを待っているだろう兄の姿が重なった。

「……左之って、ホント女の子に弱いよね」

「あのなぁ……」

「そんなこと言われても、あたし、ずっと前から戦場に身を置いてたし。そういう台詞は千鶴に言ってよ。あたしにはいらない」

元々、あたしは軍人で。様々な世界を渡るようになってからは、それぞれの戦場に立ってきた。敵を傷付けることも、傷付けられることも数えきれないほど経験した。今更、気遣いも何も必要ない。それを望んだのは、他でもない、あたし自身なのだから。
それ以上何も言わず、隊士たちに続いて屯所へ歩き出すと、背後で左之が溜め息を吐く気配がした。






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