近藤さんや土方さん、千鶴、みんなの未来には夢が持てる。みんなが幸福な未来なんてないんだろうな、って思いながら、それでも想像できる。
でも、総司は。
「総司は、お前にとって何なんだ?」
総司の幸福な未来を想像できないあたしは、なんて酷いやつなんだろう。
「……なあに、唐突に」
「ずっと疑問だったんだよ。あいつはお前にとって、特別だよな?」
足を止めたあたしの元へ、ゆっくり歩いてくる左之の顔に表情はなかった。真顔の左之って、般若面の土方さんより怖いな。心の中でそう呟いて、そっと笑う。
「俺たちや千鶴とも違う。補佐を任された相手だから……ってのも違うよな、多分」
あたしの目の前で足を止めた。真っ直ぐ見下ろしてくる左之の双眸に、ニヤリと笑みを返す。ああ、本当に、槍の先を向けられているような緊張感。
「なに、あたしが総司を好きなんじゃないかって、そんな話?やだな、恋するオトメに見えちゃったってこと?あっはは、やめてよそんな、」
「見えてねぇから聞いてんだよ」
「……」
まったくもう。
左之はほんと、容赦がないんだから。
「…………やだな。言ったら、きっと、アンタ怒るもん」
口元の笑みは変わらないまま、顔を俯けた。地面に落ちた、自身の影を見つめる。人通りの多い筈の晴天の午後、なのに周りの音は何も聞こえなかった。ごくり、と。自身の唾を飲み込む音だけが、やたら大きく響く。左之は何も言わない。
「ーー“同情”だよ」
自分が発した音なのに、耳にした途端、呼吸が止まった。
「あたしが総司に抱く、大部分のもの。その言葉が、たぶん一番近いんだと思う」
千鶴や新選組のみんなと同様に、総司のことも好きだ。大好き。
でもきっと、彼があたしの中で他のみんなと違う存在である理由は、あたしが彼に“同情”しているからなのだ。
「怒ったでしょ?最低だ・って殴る?」
総司が最も嫌う“同情”で、彼のそばに居座るあたしを。
「…………馬鹿野郎」
だけど左之の持ち上げた手は、拳をつくるでもなくあたしの頭にぽすんと置かれた。ぐしゃぐしゃと、先程茶屋でされたように撫でられる。
「自分で自分を責めきってるようなやつ、叱りつける趣味はねぇよ」
……まったく、もう。
いっそ殴りつけて、責め立ててくれたほうが楽だって、わかっててそんなことを言うんだろうか。
左之は本当に容赦がない。優しくて、残酷だ。
「……悪かったな」
余計なこと聞いて。
そう言って手を引き、あたしの横を通り抜けて左之は歩いていく。
乱れた髪を撫でつけながら、あたしはその背を見送った。
「ーー最低、だなぁ」
左之に怒ってももらえないほど酷いやつなんだ、あたしは。同情を隠して総司のそばにいる。あいつがそうと知った時、どんな顔をするのか知るのが怖いから、黙ってる。
最低だ。最低だとわかっていながら、彼のそばを離れない。ーー知られれば、きっと、そこには居られないのに。
「……なんで謝るんだよ、もう……」
ああ本当に、一発殴ってくれたらよかったのに。