屯所の中庭に突然落ちてきた女の子は、こことは違う世界の人間なのだと、信じられないことを言った。
そしてまた信じられないことに、この屯所で保護してほしいという彼女の願いを、土方さんが受け入れたのだ。

クライサと名乗った彼女が、この世界ーー少なくともこの国の人間ではないということは、信じがたいけど否定出来ない。それは大広間で話を聞いた、新選組幹部全員の意見だ。
もっと話を聞いてみると、彼女は自身が暮らしていたところとは違う世界から自身の世界に帰ろうとしていたところ、誤ってこの世界に来てしまったのだそうだ。この京のことも昨今起きている事件も一切知らないらしいし、嘘をついている様子も見受けられないので土方さんをはじめ幹部さんたちは彼女の話を信用することにしたのだ。

だけど、まさか土方さんがあの子をここに滞在させることを許可するとは思わなかった。基本的に新選組屯所は部外者立ち入り禁止だし、私がここにいることにほぼ全員がいい顔をしていないくらいだから。素性も知れぬ女の子を生かして保護するなんて、正直信じられなかった。

「てっきり処分しちまうと思ってたんだけどな」

永倉さんの言葉には、あまり頷きたくはないけど納得は出来た。私が初めてここへ連れて来られた時、散々聞いた台詞だったから。私の場合は『雪村綱道の娘』だからという理由で、ギリギリのところで生かしてもらっていたのに。どうして彼女は。単純に疑問に思った。

「ここに置いとくのが一番安全だと思ったんだよ、多分」

その疑問に答えてくれたのは沖田さんだった。沖田さんは目だけを先程出てきた戸ーーまだ彼女や土方さん、近藤さんたちが残っている広間に向けている。

「安全って……あの子が、ですか?」

「ううん。京の町が」

「……ええと」

話が見えない。返答に困っていると、前を歩いていた皆も沖田さんの発言の意味が気になったようで、足を止めて振り返った。

「総司、そりゃどういう意味だ?」

「あの子、外に放り出したらきっと、何かしら大きな問題起こすと思うよ」

「だからそうならないよう、首輪をつけておくという事だろう」

淡々と言う斎藤さんに、沖田さんが同意するように頷く。大きな問題……起こすような子には見えないんだけど、土方さんや皆にはそう思えないってことなのかな……

「ならさっさと殺しちゃえばいいんじゃねぇの?外に出しても面倒ってんなら、斬っちまうのが一番手っ取り早いじゃん」

……同意したくないけど、やっぱり彼らとしては当然の意見なのだと思う。そして同時に、私の立場も改めて認識させられた。私は父様の捜索のためにギリギリ生かされているだけで、彼らの邪魔になるならすぐに殺されてしまう存在なのだ。

「……確かに、ある意味では早急に始末すべき相手かもしれん」

斎藤さんが呟きに近い言葉を落とす。その表情はどこか戸惑いのものに似ていて、沖田さん以外の皆がそちらに顔を向けた。だけど次に口を開いたのは沖田さん。

「あの子、強いよ。多分、僕や一君と同じくらいには」

その言葉に、私はもちろん、永倉さんや原田さんたちも凄く驚いていた。彼女が、新選組を代表する凄腕の剣客である二人に匹敵する程の強さを秘めているようには、とても見えなかった。

「ああ。それに……」

「うん。まだ何か隠してるよね、あの子。下手すると僕らが束になっても敵わないかもしれないよ」

「だから殺さず保護しとく、ってか?……いや、殺せないかもしれないから保護せざるを得ないってとこか」

斎藤さんと沖田さんは頷くけど、私にはどうしても信じられなかった。私とそれほど歳も変わらない筈の女の子が、新選組の幹部である彼らよりも強いだなんて。
振り返った先、閉じられた戸の向こうでは、未だに彼女らの会話が続けられているようだった。






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