始まりは、いつも通りだった筈の生活に、小さな乱れが生じたことだった。
たった一つ。小さな小さな歯車が少し噛み合わなくなったせいで、全体が大きく歪んでしまった。

(いや、もしかしたら)

その歯車こそが、歪みを正常にしたのかもしれないけれど。








く永いユメ/01
おわりのはじまり









浅沼理苑少年は途方に暮れていた。
足の下は腐食が始まっているようなボロボロの鉄筋コンクリート、視界の至るところに転がる鉄骨や木材、何に使うのかわからないような機械や中身の知れない木箱がそこかしこにある。薄暗い。油か何かの匂いが鼻をつく、廃工場のような場所。
しかし、理苑はこんな場所に来るつもりも来た覚えもなかった。端的に言えば、ココはドコ、私は誰?状態に陥っていた。

(……確か、授業終わった後、竹内にバスケ誘われて、けど返す本があるから図書館行くって断って、本返して、また借りて、図書館出ようとドア開けたら、)

突然視界が真っ暗になり、気付いたらここにいた。

「…………」

自分は一体何の扉を開いてしまったんだと、理苑は暫し頭を抱えた(いや、普通に出入口の扉だった筈なのだが)。
やがて気持ちが落ち着いてきた頃に、現在の状況を把握するためにと顔を上げる。夢だったらどんなによかったかとも思ったが、そうでないことは気付いてすぐに自分の頬を抓って確認した。痛かった。

まず、自分の状況。服装は先程までと同じで、学校指定の学ランだ。多分姿かたちも変わりない。別人と入れ替わった、という線はなさそうだ。
しかし肩から掛けていた筈の鞄がない。激しく困る。あれには財布やら家の鍵やら大切なものがたくさん入っていたのだが(とりあえず勉強道具は二の次だ)。

そして、この場所だ。先に述べた通り、廃工場らしいこの建物は一体どこにあるのか。耳を澄ましてみても、人の声や車の音は聞こえない。人里離れた場所にでもあるのか。

「……人探すか」

何にしろ、自分がどこにいるのかを知らなければ。とりあえず尋ねる相手を探すため、理苑は建物を出ることにした。







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