長い夢だった。

『あら。おはよう、理苑』

『シャキッとしなさい。まったく、お前は本当に朝が弱いんだな』

朝ご飯の支度をしている母さんが微笑んで、ネクタイを直しながら父さんが苦笑する。テレビの前で寝ていた愛犬が駆け寄ってくるから、見上げてくるその頭を撫でてやる。ふわふわした心地良い感覚にまた眠気がやってくるけど、母さんに名を呼ばれて振り払う。

いつもの朝だ。
支度を終えて出掛ければ、校門の前で竹内に会う。

『おっす、浅沼!』

昨日のテレビ番組はどうの、数学の宿題がどうの、一通り話す中に挟み込むように竹内がバカを言い、俺が適当にあしらえば、後ろから北谷と清水が声をかけてくる。
教室に入れば、定位置で会話している赤坂と西中がこちらを見、おはようと笑むので挨拶を返す。

『毎朝飽きないわね、あんたたち。剣毅もアキラもヒロトも朝から元気過ぎでしょ』

『そう言う悠美も、いつも朝練してるのに元気いっぱいだよね』

『ちょっと、私のバスケ愛をこいつらのバカ騒ぎと一緒にしないでよ、あずは』

呆れた顔の赤坂と、その隣でクスクス笑う西中。またバカ言ってどやされている竹内と、それに大笑いする北谷と清水。他のクラスメートたちの笑顔も見つけ、久しぶりに友人たちに囲まれた感覚に心が温かくなった気がした、その直後。

「……?」

ただいつものように、楽しく会話をしている友人たちが、離れていく。立ったまま、あるいは机に寄りかかったまま、その風景ごと遠ざかっていくのだ。俺を置いて。

「……っ」

みんな、俺に気付かない。俺の抜けた輪で、笑っている。名を呼んでも、叫んでも、声は届かない。

『ーーーー』

声が聞こえ、そちらを向けば、父さんと母さんが話している姿があった。けれど、同じように離れていくその風景に、俺の姿はない。笑っている。みんな。俺のいない世界で、ごく自然に笑っている。俺のいる暗闇とは正反対の、あたたかな光の中で。
声は届かない。もがくように伸ばした手は、格子に妨げられた。鉄格子。気付けば俺は、小さな檻に閉じ込められていた。

「……っ母さん、父さん…!」

どうして気付いてくれない。どうして届かないんだ。

「竹内…北谷、清水…赤坂、西中…」

いくら手を伸ばしても届かない。いくら呼んでも、叫んでも。
ーーなぁ、気付いてくれよ。こっちを向いて。名前を、ーー俺の名前を、呼んで。





「リオン!!」







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