さて、ここで一つ、問題を提示しよう。

浅沼理苑という人間が生まれ、暮らしていた世界で彼が住んでいたのは、皆様お察しの通り日本という国である。これは彼自身がロイにも告げていたため間違いはない。
日本という国に住む者は日本語という言語を使っており、例に漏れず理苑もそうだった。そしてもちろんのこと、彼がやってきたこのアメストリスでは、日本語は使用されていない。

問題というのは、ここからだ。
理苑が話せるのは日本語だけ。書けるのも、聞き取れるのも日本語だけである。そりゃ中学高校で習っていた英語も少しはわかるだろうが、苦もなく会話するまでには至らない。
そんな彼が、明らかに日本語でない言語で話すアメストリス人の言葉を難なく理解出来るのは、一体何故なのだろうか。何故知らない筈の言語を話せるのだろうか。書けるのだろうか。読めるのだろうか。

「こっちに飛ばされた直後には理解出来るようになってたから、勉強したって解答は無しな」

そこまで語ったところで、自分を見る者のうちの一人が口を開いた。

「……え、そうだったの?」

場所はイーストシティ、メインストリート沿いのカフェ。
四人席の一つにリオン、その右隣にアルフォンス、その向かいにエドワード、更にその隣にクライサが座っており、今の発言は彼女のものである。

「そんなこと今まで言わなかったじゃん。三ヶ月も!」

「いや、だって聞かれなかったし」

「そういう問題!?」

「じゃあリオンは、疑問を抱きながらも気にしてなかったってこと?」

「気にしても仕方ないだろ」

「だったらなんで今その話してんの!」

「お待たせ致しました。苺のショートケーキのお客様は…」

「あ、はい、あたし」

「何か広がりそうな話題掘り起こせって言ったのはお前だろ」

「ティラミスのお客様は…」

「あ、オレ」

「んー、まぁ、確かに言ったけどさぁ…」

「うーん、違う言語を理解出来る、かぁ……確かに、誰かに言っても仕方ないよね」

「だろ?あ、レアチーズは俺」

「飛ばされた時に何らかのイレギュラーが起きた、くらいしか考えられねぇよな」

「異世界に飛ぶってことがまずイレギュラーじゃん。いただきまーす」

リオンとクライサの休みが被ったため、長期滞在中のエルリック兄弟を誘ってやって来たのがこの店だった。ここのショートケーキがクライサはいたく気に入っているようで、よく付き合わされるリオンも常連と化している。外観・内装ともにシンプルなおかげで、男性客も出入りしやすいところに優しさを感じる。







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