暫く廃屋の中を歩き回り、おそらく一階だろうフロアに下りると、出入口と思われる大きな扉の向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。何と言っているのかはわからない。少し様子を見ようかと思えば、突然、前触れなく扉が開いた。

「あ」

自分のものと、その他大勢の声がユニゾンした。

「な、なんだこのガキ!?」

「君!危ないから下がりなさい!」

扉の向こうから建物の中に入ってきたのはガラの悪い男が三人、その向こう側、男たちから距離をとって群がっているのは青い服を纏った人々。その光景はまるで、人質をとって建物に立てこもる犯人と、それを取り囲む警察のような……って!

(まさか、ドラマか何かの撮影中だったとか?)

ここがどこだかもわからなかったとはいえ、撮影の邪魔をしてしまうとは。まずい。
スタッフの怒鳴り声が飛んでくることを覚悟した理苑は、しかし目の前の男が突然殴りかかってきたことに驚き、咄嗟にその腕を掴んだ。

「ってぇ!」

そして実に滑らかな動きでその男を床に叩き伏せ、残りの二人と青服の人々が驚いた顔をしたことに気付いてはっとする。やべ。

「テメェ、このガキ!」

「何してくれてんだ!」

「いや、つい」

残りの二人の反応ももっともだとは思うが、先に警告もなく襲いかかってきたのはそちらだ。しかし理苑の言い分が聞き入れられるわけもなく、また一人が殴りかかってくる。少年に手を出すな、とか青服のほうから声が聞こえてくるが、やはり無駄にしかならない。
突き出された拳を避け、無防備になった腹に回し蹴りを食らわせてやると、もろに入った攻撃に男がよろめく。反射的に追撃にかかろうとした腕をギリギリで止めると、背後で残った一人が動いた。

「やべっ…」

寒気を感じて振り返れば、男がサバイバルナイフを両手に握って突進してくるところだった。避けられない。そう判断した時、後ろから、顔の横を火花が走っていった。
なんだ、と思った時には目の前で爆発が起こっており、巻き込まれた男が肌を焦がしながら気絶して倒れた。他の二人も驚いた様子でそれを見ているだけで、何の行動にも移れない。

「ツメは甘いが、子どもにしてはなかなかの手練れではあるな」

青服たちが一斉に動き出し、三人の捕縛にかかる。その中で、へたりこんだ理苑に差し伸べられた手があった。

「奴らは強盗の常習犯でね、逃げ足だけは速くて苦労していたのだが、君のおかげで捕らえることが出来た。感謝する」

「あ、いや、俺は別に」

周りと同じ青服に身を包み、その上に黒いコートを羽織った黒髪の男性。彼は笑みを浮かべてそう言い、理苑の手を引いて立たせる。彼の笑みは人当たりの良いもので悪い印象は何もない筈なのに、理苑は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

「それで、この建物は奴らのアジトだと調べがついているのだが……何故君がここにいるのか、司令部で話を聞かせてもらっても構わないね?」

(……ま、そうなるよな)







見知らぬ地で
(それが彼、ロイ・マスタングとの出会いだった)







[ prev / next ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -