リオンは一瞬でも見たもの、一度でも聞いたことは決して忘れない、瞬間記憶と呼ばれる能力を持っている。連記された女性の名前やアドレスはもちろん、数千年にわたる歴史の暗記も難なく出来る。本の内容も一字一句間違えず覚えられるし、政治家たちの長ったらしい演説も途切れることなく復唱出来る。
そんなリオンは現在、五階建ての廃工場の見取り図を絶賛記憶中だ。

「……覚えた」

「よし、では本題に行こうか」

司令官室に連行された彼の前には仕事机についたロイ、隣にはエドワードの姿がある。今回の任務は彼と二人で取りかかることになるらしい。弟の姿がないのが気になるが。

「昨今、人身売買を生業とする組織の存在が国中で問題になっていてな」

「なるほど、その組織のアジトがこれか」

「んで、オレらに忍び込みに行けってことか」

「察し良すぎるだろう、君たち」

「こんな図面見せられてそんな話されりゃ、誰だってわかるだろ」

説明をちゃんと聞くならば、こうだ。
主にスラムの人間を人身売買に使っている組織の一つが所有するアジトが、地道な捜査によって判明した。そこには商品として捕らわれている者も多数いるだろう。リオンとエドワードの仕事は、組織の者がどれだけいるか、捕らわれている者がどの部屋にいるか、アジトとされている廃工場の中の様子を探ることだ。

「つまりは偵察か」

「そうだ。可能であれば捕らわれている人々の救出とも行きたいが、内部の状況がわからない以上は下手に動くべきではないな」

なるほど、だからアルフォンスがいないのか。彼自身の能力は非常に高いのだが、如何せん鎧が立てる音が耳につく。身を隠すのにも不向きだ。いや、彼に悪いところは何もないのだが。

「いいな?無茶だけはするな。それから単独行動もしないように」

「了解」

「わかってるよ」

エドワードが渋々了承する様子にリオンは苦笑した。地味な行動を苦手としている彼には、今回の仕事はきっと不向きなのだろう。片っ端から潰してしまえ、という命令のほうがやる気が出る筈だ。
そこでリオンは、彼と同じように地道な捜査が苦手な人物を思い出した。テロ組織のアジトに乗り込んでは壊滅させてきた人物。少し前から視察に出ている彼女がもし今いれば、ロイの命令など聞き流して組織を潰しにかかるのだろう。







命令無視の常習犯
(ま、いないやつのこと考えても仕方ないけどな)








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