だが、その時すでにクライサは銃口の先にいなかった。
コンテナに背をつけたロイの肩を借り、ゲイルが顔を出すのと同時に飛んだのだ。合わせた両手。青白い光が集まって弾け、右手に握り直したナイフが氷の刃を得て長さ、鋭さを増す。
そっちから来てくれるとは、好都合だ!
ゲイルが構えようとしていた銃を真っ二つに切り捨て、飛び上がった勢いのまま彼の頭上を越える。そしてゲイルの肩を蹴りつけながら、体を巻くようにして武器を吊っていた紐を、背後から綺麗に断ち切った。
「ぐえええ〜っ」
バラバラになった武器と共にコンテナから落ちたゲイルの叫びを聞きながら、クライサは危なげなくコンテナの上に着地する。
「なんなんだよ〜!びっくりするじゃないか〜っ」
振り返りざまに立ち上がり、視線を下に落とせば、ガシャガシャと武器を鳴らしながらゲイルが体を起こすところだった。背中から落ちたにもかかわらず痛がる様子もない。なんて奴だ。
「動くな」
その頭に、ロイが拳銃を突きつけた。
「そのまま前のコンテナに手をつけ。立ち上がるんじゃないぞ」
「なんだよ〜、二対一かよ〜」
「今更言う文句?それ」
ゲイルが膝立ちで手をついたコンテナの上で、クライサが呆れ顔でそれを眺めていた。ナイフは既に氷を解かし、ベルトに戻している。
「さて、いい加減観念しな。大人しく捕まっといた方が身のためだよ」
だが、そこでゲイルが笑った。
「うひひひひ」
ニヤァ、と歯を見せたゲイルの前で、ミシ、とコンテナが音を立てた。
コンテナから降りようとしていたクライサは、不審に思って動きを止める。何だ?ゲイルは両手をついたまま大人しくしている。その顔に浮かんだ笑みは不気味だが。
ーーーーいや!
よく見ると、ゲイルの筋肉は盛り上がり、鉄製のコンテナを押していた。
「がああああああ!!」
ロイとクライサが気付いた時、ゲイルが咆哮した。
ゆっくりと傾いたコンテナは、彼の叫び声に応えるように向こう側へと倒れていく。轟音と衝撃。奇しくも貨物発着場と同じ状況に陥り、辛うじて冷静を保っていたクライサは、コンテナが倒れる寸前に隣のコンテナに飛び移った。
湧き上がる砂煙。その中に立ち上がるゲイルの姿を見たが、クライサもロイも、もうもうと立ちこめる埃に何も出来ない。埃が落ち着くのを待とうとしたが、それより早くクライサの足下が再びグラリと傾いた。
「げっ!」
ここもか!
慌ててコンテナから飛び降り、その場から逃れる。物凄い地響きと立ち上る埃。ゲイルはあちこちのコンテナや荷物をひっくり返しているようだ。何度も地響きが伝わってくる。
一向に晴れない視界、細めたクライサの目に、浮かぶ色。
ーーああ、厄介だ。
まだ自分たちにはやるべきことがあるのに。上の階にいる筈のコルトを捕らえなければならないのに。こんな奴を相手にしている暇なんてないのに。
……やはり、捕まえる、なんて生易しいことーー
「クライサ」