連続して吐き出される弾の轟音。クライサたちが隠れた木製のコンテナは側面に穴が開いていき、頭上で弾ける木片から頭部と目元をかばってひたすら耐える。
「んんん〜?当たんねーな〜。おかしいな〜」
ゲイルが銃から空の弾倉を外している隙に、クライサとロイは近くの箱の陰へと滑り込んだ。
元いた場所を振り返ると、どこもかしこも穴だらけになっただろうコンテナを予想していた二人は目を見開く。コンテナの穴は、隠れていた二人の頭部の位置に近い場所の、ごく数ヵ所に集中してあいていた。適当に撃っているようでも、的は外していないのだ。
「…どうやら相手は銃の名手らしいな」
「でも大佐は跳弾が怖くて使えない、と」
「……リオンを下に戻すべきではなかったか」
ロイも拳銃を持ってはいるが、鉄製のコンテナに跳弾する可能性を考えると使うのは躊躇われた。その点、鷹の目の愛弟子であるリオンなら抜群のコントロール能力を持つゆえその心配はなかったのだが。
「けど、あいつは躊躇いなんか微塵もなさそうだね」
「腕に自信があるのか、あるいは…」
「何も考えてないか、だね」
クライサが言うと同時に二人はその場を離れた。その直後、二人の立っていた場所の床が跳ね上がる。
「ちょこちょことよく動くな〜。このゲイルさんが捕まえてやるぞ〜」
ゲイルは肩にかけていた別の銃も構え、二手に分かれたクライサとロイを二つの銃口でそれぞれ追った。弾けた床の破片が二人を追いかけるように軌道を描き、あたりには短く大きな発砲音がこれでもかと充満する。
なんてめちゃくちゃな奴!自分を追う銃口から逃げ回るクライサは、鉄製のコンテナの裏に駆け込み、その側面に背をつけた。そこには既にロイがいて、彼も大分走り回ったのだろう、額に浮いた汗を腕で拭っている。
「どうする?応戦しようにも近付けないし、錬成する暇もない。弾切れを狙っても後から後から武器を替えてくるし」
「まだまだたくさん背中にしょってるぞ」
「うぇ、ホントに?」
二手に分かれている間に、ロイは隙をついてゲイルの後ろに回ってみたのだが、その時に攻撃しようと思っていた彼の背中から腰にかけて大量の武器が背負われているのを見てしまったのだ。それだけ多くの武器を持っている以上、弾切れを待って逃げ回るにはこちらの体力が保ちそうにない。そしてどんな武器を持っているかわからないまま、ロイの焔で攻撃するわけにはいかない。
「せめてアイツの懐に入れれば…」
広い部屋に充満した埃と火薬の匂いに口元を覆いながら、クライサは腰のベルトに手を伸ばした。愛用のナイフを備えたそれは、宿屋に置いてきてしまったのをアルフォンスが届けてくれたものだ。
「だが、入る前に撃たれるだろうな」
「だよねぇ…」
クライサは一本抜いたナイフを器用に指先で遊ばせた。ゲイルを狙って投擲しようにも、彼の銃に対して射程が足りない。仮に射程圏内に入れたとしても、狙いをつける間にこちらが撃たれてしまう。
ロイは何か策を思いついただろうかと、クライサが彼に顔を向けた時、コンテナを走る足音がした。続いて、ドオン、と大きなものが何かに飛び移る音。
「……」
「……」
上を見た。コンテナとコンテナの距離はかなり離れている。
ドオン。
また、音がした。
背中に大量の武器を背負った大きな体が、コンテナを飛び移るとは考えられない。
だが、もう一度鳴った音は、クライサとロイが隠れていたコンテナが立てたものだった。
「見ぃつけた〜」
コンテナの端に大きな足が掛かり、その向こうから二つの銃身と男の顔が覗く。ゲイルはニマァと嬉しそうに笑った。