「もうヤダ…もう帰る…」
「なんだね、その弱気な発言は。君らしくない」
クライサが肩を落としたままぶつぶつと呟く言葉に、ロイは眉を顰めて振り返った。
「だって本当に怖かったんだよ!?エドをあんなに怖いと思ったの初めてだよ…」
「そんな大袈裟な…」
「本当だって!檻の中にライオンと一緒に閉じ込められたようなもんだったんだから!」
「君ならライオンでも倒せるだろう」
「リオンもそうだけど、アンタらあたしを何だと思ってんの?……多分倒せるけどさ」
エドワードとクライサが四階に下り、ロイたちと合流した後、エドワードはアルフォンスやリオンに宥められながらアンシーの保護とハボックたちの援護のため下へ戻っていった。クライサはコルトを捕まえるため、ロイと共に上の階へと向かう。
「大体、来るのが遅いんだよ。あたしたち二人だけであれだけの人数相手すんの、大変だったんだから」
「普段からテロリストのアジトに単身乗り込む奴の言葉とは思えんな。そもそも、君が誘拐なんかされるのがいけないんじゃないか」
「う!そ、れは、作戦だもん」
「バレバレな嘘はやめておきたまえ」
倒れて気絶している男たちを避けながら階段を上る。エドワードが敵を一人でのしてしまった五階は資材置き場になっており、たくさんの木箱や机、更には列車に乗せるような鉄製のコンテナもある。
その階を通り過ぎようとした時、部屋の片隅で影が動いた。
「お〜いてて。コンテナの上で寝ると首が痛くなるんだよなあ〜」
「げっ!アンタ、いつの間にそんなとこに!?」
「レールに丸太を置くなんて重労働をした後だから、一休みしてたんだよ〜」
伸びをしながら立ち上がったゲイルに、ロイは間髪入れずに銃を向けた。貨物発着場で彼の怪力を目の当たりにしたことは記憶に新しい。
だが鉄製のコンテナが目に入り、万が一跳弾することを考えると簡単に引き金は引けなかった。その隙に、ゲイルはコンテナの脇にある机を放り投げる。舌打ちしながらそれを避けたクライサは、彼を睨み付けつつ素早く戦闘体勢をとった。
「君と鋼のはここで戦っていたんじゃなかったのか?」
「そうだけど全然気付かなかったんだよ!悪かったね!」
貨物発着場で鉄製のコンテナを倒してみたりと予測不能の行動をとってみせたゲイルとは、なるべくなら対峙したくなかった。しかも最悪なことに、今の彼の手には銃が握られているのだ。
ゲイルが笑ったまま銃を構えると同時に、クライサとロイはその場を離れる。近くにあるコンテナの陰に隠れると、彼らが先程まで立っていた位置で火花が飛び、近くにあった木箱がバラバラに弾けた。