グニャグニャと曲がった階段や、もはや手摺の意味を為していない鉄の棒を上手く伝い、ロイたちはなんとか二階部分の床に足を下ろした。
途中、絶妙な位置に張り付けられた氷の上から棒を握ってしまった時は、後であのクソチビ本気で殴ろう、と思ったが。…つくづく、クライサは人をおちょくる天才だと思う。なんだ、あいつ的に助けは必要ないのか。
アルフォンスが塞がれたドアらしき壁に錬成陣を描く。独特の光の後、出来上がった扉をロイが蹴り開けると、途端に中から銃を連射する音が聞こえた。三人は扉を挟むように外壁に身を隠し、鳴り続く銃声と壁が弾ける音を聞きながら中の様子を探った。
「こう暗くてはやりにくいな」
中に誰がいるかわからない以上、薄暗い場所に向かって焔を出すわけにはいかない。双銃を握るリオンも同じく、発砲は出来ずに構えているだけだ。鎧の身体を持つアルフォンスは銃を恐れることはないのだが、暗闇にエドワードやクライサがいた場合、跳弾に当たらないとも限らない。
「せめて、兄さんやクライサがいるかいないかだけでもわかればいいんですけど…」
「声をかけても、この銃声じゃかき消されそうだな」
この危険な場所で、エドワードらがアンシーを連れている筈はない。アルフォンスは、二人がいなければ、ここにはテロリストしかいないと考えていた。が、そのエドワードとクライサの所在が確認出来ない。
「エドワードがいるかどうか判断する手段があればな」
「あの二人が同じ場所にいるとは限らないだろう」
「エドワードはともかく、姫なら突然発砲されようが焔ぶち込まれようが避けられるだろ、本能で」
「…………」
「いや、否定しろよ。なに納得した顔してんだよ」
少しの間考え込んでいたアルフォンスは顔を上げ、口を開いた。どんなに小さな声でも、兄なら反応しそうな言葉がなくもない、と。
「…けど、怒られそうな気が…」
「非常事態だ。仕方ない」
「ですよね…」
ロイに促され、アルフォンスは内心で兄に謝りながら扉から少し顔を出し、ごくごく小さな声で呟いた。
「……お豆ちゃん」
その声があまりに小さかったものだから、ロイとリオンはエドワードに聞こえないのではと疑うが、アルフォンスは返事がないことを確認して上の階を指した。
「ここにはいませんね。上に行きましょう」
いまいち納得いかないが、その自信たっぷりな様子にツッコミを入れる気にもなれず、彼に従って三階に上がった。そこでも先の言葉を繰り返す。
そして誰もいない四階でアルフォンスが「お豆ちゃん」と言った時だった。
「こらぁ!誰が豆だ!」
……。
「一階上ですね」
「すごい耳をしているな」
「……」
五階から聞こえてきた返事に、ロイとアルフォンスは顔を見合わせ、リオンは呆れたっぷりに溜め息を吐いた。