「大丈夫だろ。あんたなら」

ロイの言葉に数秒も置かずに返したのは、ハンドルを握る少年だった。ロイは目を瞬かせ、車の前方に向けられたままの横顔を見る。リオンはそちらに顔を向けることなく続けた。

「あんたはテロリストとは違う。だから大丈夫だ」

「……随分無責任なことを言うじゃないか」

根拠は。
そう彼が問うと、漸くリオンはロイへと視線を向けた。

「だって、あんたには止めてくれる人がいるだろ」

もしも道を踏み外そうとするのなら、それを全力で妨げようとする者が彼にはいるだろう。
腹心であるホークアイ、妹であるクライサ、何だかんだでエドワードとアルフォンス、ハボックたちもいざという時は体を張って止めようとする筈だ。
自身を踏み止まらせようとする者がそれだけいて、なお間違った道を進むあんたじゃないだろう。そう告げたリオンは、また視線を前方へと戻した。

「……確かに、そうだな」

背中を預けた腹心には、自分が間違った道を選ぶようなら背後から撃て、とまで言ってある。妹は問答無用で手や足が出るだろうし、鋼の兄弟も暴力に訴えてでも止めに入るだろう。
ならば、信頼する部下たちのためにも、自らを律することを諦めるわけにはいかない。部下たちの手を汚させるわけにはいかない。
……しかし。

「薄情だね。君は止めてくれないのか?」

「俺はあくまで一般人なんだよ。暴走したあんたを、一般人が止められるわけないだろ」

「そうでもないさ。君は、君の持つ影響力を知らなすぎる」

ふぅん、と気のない声で返しつつ、リオンはアクセルを強く踏み込んだ。

「じゃあ、俺が止めたらすぐ止まれよ。そしたら止めてやる」

「善処しよう」

右側に見えるレールの先。工場の近くに停まった車を見つけてリオンとロイの顔が険しくなる。その車を運転していた筈のハボックはアルフォンスと共にレールの上におり、ブレダは車の陰で工場のほうから攻撃してくるテロリストたちに応戦している。
ハボックとアルフォンスが懸命に押しているのは、レールの上に置かれた大きな丸太だ。元は三本置かれていたのだろう、一本は地面に転がっているのだが、まだ二本もレールの上に残っている。

「まずいな…もう列車が来る」

「時間が無い、飛ばせ!」

「わかってる。大佐こそ準備しとけよ」

レールの上の障害物と人影に気付いたのだろう、列車が減速を始めた。このまま停車されるのだけは避けなければならない。テロリストの目的は、止まった列車から大量の武器を奪い取ることなのだ。
二本目の丸太をなんとか押しのけたハボックが近付く車影に絶望しかけた時、止まりきらない車からロイが飛び降りた。

「どいてろ!」

「遅いっすよ!」

手袋をつけた右手を掲げた彼の姿に、ハボックは安堵混じりに文句を返しながらアルフォンスと共に丸太から離れた。
弾かれた指から放たれた火花は丸太に触れた途端爆発し、粉々になった破片は地面につく前に燃え尽きる。工場からテロリストたちの怒号と銃声が響いた。









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