遠くの空に上る煙を見たロイは、またか、と舌打ちする。規模は大きくなさそうだが、あれは間違いなく爆発騒ぎがあちこちで起きている証だ。今のが九つ目。これでは援軍の到着はいつになるのやら。溜め息をついてから、隣の運転席に座る少年の手元を見る。
「運転は平気か?」
「慣れた」
リオンは前を向いたまま答える。くせの強い車だけど、まぁなんとかなるだろ、とさらりと言うと、前方を走る車へと目を向けた。大きくよろめきながら進む車からは時折悲鳴が聞こえてくる。
「あっちこそ大丈夫なのかよ」
「アクセルとブレーキさえわかればなんとかなるだろう。ぶつかって困るような障害物もここには無いしな」
目的地に向かってぶっ飛ばせばいい。ロイの返答に、リオンは確かにと頷いた。
ロイたちは司令部でテロリストの目的を把握した後、すぐに各支部へと連絡した。しかし時を同じくして立て続けに起きた爆弾騒ぎに、兵は各現場に人員を割かれており、テロリストの目的を阻止するための手配もままならなくなってしまったのだ。計画から目を逸らさせるための騒ぎだとはわかっているのだが、結局軍は混乱に陥り、ロイたちが動くしかなくなってしまった。
ホークアイに司令部を任せ、ロイはハボック、ブレダ、リオン、アルフォンスを連れて列車に飛び乗ったのだが、廃工場に一番近い駅に辿り着く前にまたもや爆弾騒ぎで列車は停車。近くを見回っている軍の車を借りようと走り回っていたのだが。
「はっきり言って車泥棒だよな」
「テロリストの車を有効活用してやっているんだ。文句を言う者はいないだろう」
「テロリストが文句言うだろ」
「聞く義理はない」
「……まぁな」
端的に言えば、偶然見つけたテロリストの車を頂戴したのだ。シートがかけられた二台の車には誰もおらず、座席の後ろには銃が積まれたままになっている。どこかで爆弾をセットしていたのか、テロリストたちが戻ったらそりゃもう驚いただろう。ま、知ったことではないが。
「この車、かなりいじってあるな。ここまで金かけたり銃集めたりして、こいつらは何を狙ってたんだ?」
「……軍に対抗できる組織を作って、国家転覆でもするつもりだったのかもしれないな」
ロイは座席の後ろに積まれた銃器を一瞥する。武器を一番多く持つ者が国を統べる。古今東西それに変わりはない。
「軍とテロリストの違いは、持ち得る武器の量と言えなくもないだろう。だが…」
数時間前にクライサがコルトから聞いた言葉を、それとは知らず繰り返す。しかし、ロイはそこにコルトとは違う言葉を付け足した。
「憎しみで武器を取ることはしたくないな…」