(クライサと、)
※現パロ
アドレス帳を開いて、次のページ。一番上に陣取る名前を、決定。見慣れたメールアドレスの上にある電話番号を選び、また決定。
一つ息を吐いて、発信。
プルル、プルル。
電子音が途切れ、向こうから聞こえてきたのは
『ただいま、電話に出ることがーー』
出来ません。三度連続で機械的な声を聞けば、さすがに諦めたくもなる。
大袈裟なほど肩を落とし、何度目かの溜め息をつく。ベッドの上にうつ伏せになったまま、折り畳んだ携帯電話を放り投げた。ポスンと小さな音と共にシーツに沈む。
三度。ほとんど間も置かずに電話をして、一度として留守電以外の声を聞いていない。かといって再びかけるのは躊躇われた。これといった用が無いからだ。
実際、何か用があるのに相手が電話口に出ないのなら、メールをすればいいことなのだ。だがクライサはそれをせずに、ただ電話をかけることだけを繰り返している。
また手を伸ばしてそれを取り、開く。今度は発信履歴を開けた。三つ並んでいるのは全て同じ名前。ああ、この反対に自分の名が、彼の着信履歴には続いているのか。それを意識してまた肩を落とした。
「……よし、最後に一回だけ」
これで出なかったら、諦めよう。後で着信に気付いた彼が連絡を入れてきた時の言い訳を考えねば。
プルル、プルル。
途切れた電子音。耳に届くのは。
『ただいま、電話にーー』
……だよね。
わかっていたことだけれど、何だか悔しくて。続く機械的な声をそのままに、耳元から携帯を離すことをしない。
『ピーッという音の後に…』
まだ何となくそのままでいたら、思っていたより早くその時はやってきた。
ピーッ。
「…………あ」
そのまま切るつもりだったのに。知らず、声が出ていた。
「ご、ごめんね何度も電話して!なんか勘違いしちゃってたみたい。特に用は無いから気にしないでね!じゃ、また!」
ピーッ。
……ああ、やっちゃった。
この後やってくる筈のチャンスを、自ら潰してしまったのだ。溜め息の大きさは先程までの比でなく、再び閉じた携帯を力無くシーツに投げる。もう何をする気も起きやしない。
「……言えないよ」
007:君へのメッセージ
声が聞きたい、だなんてさ
【H21/06/06】