ひさしのような形で少年を銃弾から守った壁は、やがて自身の重みに負けて崩れ落ちる。しかしその頃には既にエドワードは二階の非常口を潜っており、一階の騒ぎに気を取られていた男たちに向かって走っていった。

「な!なんだ、お前はっ!」

「遅いっ」

走りながら右腕の機械鎧に刃を錬成し、向けられた銃を斬りつけた。切断された銃身が床に落ち、絶句する男を横目にエドワードは分厚い壁を錬成する。三階から降りてきた者たちが銃を撃つが、全て壁に遮断されて少年には届かない。
自身の性格上、一対多数の闘いには慣れている。チームワークもとれていない、ただ群れて銃を撃つしか能の無い者たちに負ける気はしなかった。

しかしそうは言っても、相手の人数はかなりのものだし武装もしている。正攻法で行くよりは、こちらの小回りの良さを活かしてひっかき回して混乱させながら少しずつ確実に潰していったほうがいいだろう。
そう判断し、一階に戻ろうと非常口に向かったエドワードは、すぐさまその判断を覆すことになる。

「た、助けてくれぇぇええ!!」

「頼む!い、命だけは……っぎゃあああぁぁあ!!」

階下から建物を揺らすような絶叫がいくつも聞こえて、エドワードやそこにいた男たちに沈黙が落ちる。暫し続いた悲鳴は突如ピタリと止み、その後何の物音もしなくなった。

(……ああ、そうだった)

一階に残してきた彼女は、自分などよりも遥かに多く、一対多数の闘いを経験していらっしゃったのだ。










やがて建物内の階段を普通に上ってきたクライサに、エドワードはその姿を見た途端大きく嘆息する。それに彼女は不思議そうに首を傾げた。
しかしエドワードが問うと、上機嫌そうな笑みを浮かべる。

「……溜まってたのか?」

「うん。テロリストのアジトぶっ潰すのも久々だし、せっかくだから暴れちゃおうと思って」

「さっきのは?」

「ああ、あの断末魔?」

一階の静寂ぶりから、その喩えも言い得て妙だと思った。確かに、先程のは悲鳴というには生温いかもしれない。

「別にいつも通りだよ?確実にかつ迅速に、かつたっぷり恐怖を与えてから殲滅しただけ」

無邪気な笑顔でなんて恐ろしいことを。エドワードはそれ以上ツッコむことなく、三階への階段に目を向けた。
二階にいた男たちは先程の叫び声にかなり動揺した様子だったため、全員を気絶させるのに苦労は無かった。おそらく、三階にいる者も下に降りるのを躊躇っているのだろう、階段を降りてくる者はなかなか現れない。

「さ、次行こっか」

そして覚醒した暴れ馬が楽しげに階段を上り始めたのを見て、エドワードは初めてテロリストたちに同情した。









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