誰もいない筈の地下室に小さな足音が響き、クライサは表情を固くする。見張りの者が入ってきたのか。アンシーを振り返れば、彼女は先のクライサの言葉に従って、口を閉ざして机の下でじっとしている。

足音はこの部屋の真上で止まった。クライサは階段の上からは見えない位置に隠れて息を潜め、テロリストが降りてくるかもしれないそこを見つめる。
右手を腰に伸ばすが、常備している筈のナイフが無いことに気付いて舌打ちしたくなった。そうだ、司令部に電話をかけたあの時、ナイフを入れたバッグごとベルトを部屋に置いていってしまったのだった。

(武器は無し、今は錬金術を使うわけにはいかない……もしもの時は素手で、か)

自分一人なら何とでもなるが、今はアンシーもいるのだ。彼女を危険に曝すわけにはいかない。上にいる人物が部屋を通り過ぎて、扉の外に出ていってくれるのが最善なのだが。
しかしその人物は、ゆっくりと階段を降りてきた。ブーツに包まれた足が見えてクライサは眉を寄せる。

「……!」

が、全身が見えてくるに連れて、彼女の顔から緊張の色が消えた。

「クライサ!?」

「……そっか、アンタもいたんだね」

緊張は無くなったが、どっと疲れた。こちらの姿を確認して驚いた声を上げた少年の名を、隠れていたアンシーが嬉しそうに呼ぶ。

「エドワードお兄ちゃん!」

「アンシー!良かった、無事だったんだな」

どうやら彼……エドワードも、自分と同じように捕まっている筈のアンシーを探していたらしい。それでたまたますれ違い合って、互いの存在に気付けなかったのか。
漸く納得がいった。コルトの言った『君たち』とは、クライサとエドワードのことだったのだ。

「ああ…そういえばエドと大佐はいとことか口走ったっけね、あたし」

「それでオレも誘拐されたのかって思うと複雑だよ…」

何はともあれ、彼がいるのならば百人力…いや万人力だ。向こうも同じことを思っているのだろう、エドワードが悪戯っぽく笑い、左手を拳にして差し出した。対してクライサも握り拳を作り、少年のそれに軽くぶつけて笑う。

「んじゃ、行きますか」

「ああ」

そして小さな地下室を出ると、一番大きな扉に向かって走り出した。









index




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -