何も知らないアンシーは、クライサに会えたことを素直に喜んでいるらしく、会えて良かったと笑う。

「あのね、お姉ちゃんにあげる新しい絵を描いたんだよ。でも、おじちゃんが爆弾事件が続いてるから地下に隠れてなさいって言うから、絵を渡せなかったの」

アンシーをまだ騙しているということは、テロリストは彼女を両親の元へ返すつもりがあるということだ。クライサはとりあえずアンシーの無事がわかってホッとするが、それと同時に疑問を抱く。
地下室の他の部屋には誰の姿も無かった。ならばコルトが言った、君『たち』というのは誰のことだったのだろうか。部屋の隅に隠れていたのを見落とした、ということは無い筈だが…

他の子どもの姿も無い以上、いつまでもこうしているわけにはいかない。コルトのあの様子から、おそらくじきに彼の計画は完遂されるのだ。それほど時間に余裕は無い。
クライサは抱き上げたアンシーを連れて、見つけておいた入り口近くの小さな地下室に入り、少女を机の陰に降ろした。

「アンシー、これからたくさんの人たちが鬼ごっこやかくれんぼをするの。だからアンシーもここでかくれんぼしててくれる?見つからないようにするんだよ」

「うん。かくれんぼは上手だから、大丈夫だよ」

素直に頷いたアンシーの頭を撫でたクライサは、一度考えるような素振りをした後に再び口を開いた。

「暫くしたら、あたしか…エドお兄ちゃんかアルお兄ちゃんか、軍の人…えーと、よく町で見回りしてる青い服の人たちがアンシーを迎えに来るから」

そしたらかくれんぼは終わりだから、それまではここでじっとしててね。
クライサがそう言うと、アンシーは大きな目を真っ直ぐ彼女に向けながら、うんと頷いた。

エドワードとアルフォンスならば、アンシーとクライサ、そしてコルトの姿が無いことから誘拐事件との関連に思い至るだろう。そして彼らが東方司令部に向かってくれれば、どうせ身代金の要求が行っているだろうロイもこちらの居場所の特定にかかってくれる。
ここからは若干希望が入っているが、これまでのテロ事件の標的からテロリストたちの目的に気付いてくれれば、この廃工場らしき建物の特定も難しくない筈だ(地図も何も無いからクライサ自身にはわからんが)。ロイや、何かと鋭いリオンなら気付けるだろう。

(ま、助けが来ないなら、あたし一人で何とかすればいいことだし)

では行くか、とアンシーの元を離れようとしたクライサの頭の上で、カツンと石畳を叩く音がした。









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