「とは言っても手がかりも何も無いんじゃ調べようがないけどな」
「確かにな。……そういえば、何か用があったんじゃないか?」
ああそうだった、とリオンは手を打ち、腕に抱えていたファイルの一番上にあった紙をロイに手渡した。
少年が何食わぬ顔で差し出したので、また苦情か嫌みの手紙だろうとうんざりして受け取ったロイは、その文面を見た瞬間勢いよく立ち上がった。
そして直後、崩れ落ちるようにして椅子に腰を下ろし、机に突っ伏した。机をはみ出た手から落ちた紙を拾い上げ、やはり表情を変えないリオンが文面を読み上げる。
「『東方司令部司令官へ。妹を返して欲しければ二千万センズ支払え。詳細は追って知らせる』」
「……何をやっているんだ、あいつは…」
呆れ返った低い声が響いた直後のことだった。下士官が一人、扉の前に立った。
「アルフォンス・エルリックさんがお見えです。お通ししますか?」
「アンシー!」
地下の石畳を歩きながら、クライサは自分と同じように捕まっているであろう少女の名を呼んだ。
テロリストたちは捕らえてきた彼女をただの子どもと見くびっているらしく、地下室に見張りはいなかった。しかし上から聞こえる足音や話し声、正面の大きな扉の前で動く人影などから、この建物にたくさんの人間がいることがわかる。
彼らに見つからぬよう細心の注意を払いながら、小さな少女の姿を探す。クライサは、コルトのあの言葉がどうにも気になって仕方がなかった。
『君たちの尊い死で、軍への批判も一段と盛り上がるだろう』
彼は、犠牲になる者をクライサひとりに限定しなかったのだ。となれば、一緒に連れて来られた筈のアンシーがその対象だと考えられる。そうでなければ、また別に誘拐された子どものことだろうが、どちらにしろその姿を探さなくてはならない。
クライサ自身がまだ生かされていることからアンシーや他の子どもも無事ではいるとは思うが、コルトを止めに行く前に安全だけは確保しておきたい。
自分が捕らえられていた場所と同じような地下室を全て見終わり、残る一つの階段を降りる。また少女の名を呼ぶと、可愛らしい声が聞こえた。
「クライサお姉ちゃん?」
「アンシー!」
その部屋には電気が通っているらしく、部屋の隅でランプが光っている。その灯りの下で美術の本を開いていたアンシーを見つけて、クライサは駆け寄った。