「あたしをどうするつもり?口封じのために殺す?」
「今すぐは殺すつもりはない。テロリストたちを集めるのに、金が必要だからな」
「……ふぅん」
コルトの口調は、昨夜と打って変わって冷たい。その目にも、冷たい光しか宿っていない。
(今すぐは、ってことは用無しになれば処分する、と)
ロイの立てていた仮説は大当たりだったというわけだ。複数のテロリストを動かすために金を使い、その金を集めるために誘拐をする。そして今、クライサはこうして誘拐されているわけだから、おそらく身代金の要求は東方司令部司令官であるロイに送られることだろう。帰ったら長い長い説教が待っていそうだ。
だが、小さな子供ばかりを狙ったこれまでの誘拐と違い、クライサはそう簡単に騙せるような年齢ではない(そもそも、拐われた状況からして誤魔化せそうにはないが)。はじめから、生かして帰すつもりは更々無かったのだ。
「怪我人が出ない筈の事件で、最初で最後の犠牲者となる。君たちの尊い死で、軍への批判も一段と盛り上がるだろう」
まるで闇そのもののような暗い目を真正面から見据え、クライサは口を開く。そこにあったのは、上に立つ者だけが持つ色。使われる人間のそれではない。
違う。彼は誘拐犯の……テロリストの『仲間』じゃない。
「コルトさん。……アンタが、この事件の首謀者か」
ああ、まったく面倒なことになった。ほぼ自業自得とはいえ、こちらの素性がバレなければ、こんな巻き込まれ方をせずに済んだだろうに。
「ったく……まさかテロリストに誘拐される日が来るとはね」
「テロリスト、か。君はテロリストと軍人の違いを知ってるか?」
クライサは答えない。答えられないと言うよりは、単に興味が無いだけだ。コルトが笑う。
「それは、大量の武器を持っているかいないか、だ」
コルトが地下室を出ていってから、クライサは錬金術で足枷を外しながら先日の列車でのことを思い出していた。
急停止する列車の窓から見えた影の笑みと、コルトが見せたニヤリとした笑みが同じだったことに気付く。やはり、あれは予感だったのだ。コルトがあの場にいたかどうかは知らないが、そこにある悪意だけは感じ取っていたのだ。
「テロリストと軍人の違いは、武器の数」
彼はそう言った。実際どうなのかは知らない。国民を守る存在である軍人は、しかし民が暴動を起こせば容赦なく銃を向けるのだ。例えばイシュヴァールの民にとっては、軍人はテロリストと何ら変わりは無いのだろう。
けれど。
「どっちにしても、こんなやり方は気に入らない」
クライサは立ち上がる。さて、気に入らないものはどうするか。決まってる。ニヤリ、笑う。
「ぶっ潰してやりますか」