(クライサとリオンとリオ)
「鬱陶しい!!」
「おごっふ!!」
ボディーブローが鳩尾にクリティカルヒット。崩れ落ちる男を見下ろして、リオンは深々と溜め息を吐いた。
司令室から廊下に繋がる扉を開けた瞬間、彼の目の前で行われたのは氷の錬金術師による死刑執行だった。腹を抱えて蹲るリオに憐れみの視線を落としてから、クライサへと目を向ける。
「状況説明」
「リオがうざかった」
「それはいつもだろ」
「さりげに酷いなリオン…」
彼が司令部に顔を見せたのは午前。リオンは本日は遅番だったため知らないが、彼はクライサと顔を合わせてからずっと騒ぎ立てていて、それは大層鬱陶しかったのだそうだ。
「明日は何の日だーって」
「明日?……何かあったっけ?」
人並み外れた記憶力を持つ自分がわからないのだから、これといって特別なことは無い筈だ。となると、リオ個人にとって特別な日ということになる。
「明日はね、コイツの誕生日なの」
未だ蹲ったままのリオの背を踏みつけながらクライサは言った。いや、全く酷い扱いだ(でも止めない)。
「へぇ。誕生日ねぇ…そりゃ知らなかった」
「まったく…祝ってもらいたいのはわかるけど、前日から騒ぐのはやめてほしいね」
いい歳して自分の誕生日だからと騒ぎ立てるなんて。完全にガキだ。呆れた溜め息を吐き出すと共に、自身もまた足元の背を踏みつけた。
「で、実際どうするつもりなんだ?」
「んー?明日ケーキ作ってくる予定。リオ、明後日までこっちにいるらしいし」
「ケーキ?」
「ケーキ」
あれ、大尉って甘いもの苦手じゃなかったっけ。
クライサの満面の笑みを目にした直後、リオンはその疑問を飲み込むことに決めた。
006:8月27日
明日は俺の誕生日!
【H21/06/04】