「わかった、今かわる」
「リオン、誰からだ」
いつもと様子の違う相手の声に、表情を軍人のものにしつつ受話器を耳から離すと、丁度いいところに、上司が部屋に戻ってきた。
「姫から。急ぎだって」
真剣な顔そのままで受話器を手渡せば、彼もただならぬ様子を悟ったらしく、険しい顔つきになる。
「私だ。…………?」
「大佐?」
だがロイは、電話に出るや否や、怪訝そうな顔で首を傾げる。次いでリオンに向けられる視線。
「本当に氷のから連絡があったのか?」
「?ああ」
「切れてるぞ」
「……え」
第六章
「……ん…」
最初に感じたのは、冷たさだった。目を開けて、自分が床に倒れていることに気付く。
頬や足など、固い床に触れていたせいで冷たくなってしまった場所をさすりながら、体を起こした。
「…くっそ、不覚…」
覚えているのは、司令部に連絡を入れロイに取り次いでもらおうとした時、背後から男に襲われたところまで。
動きを封じられて口に布を当てられた。何か薬品を染み込ませていたのだろう、すぐに意識は闇に落ち、今も少々頭が痛い。
焦っていたとはいえ、背後にいた人間の気配に気付けなかったとは。自分の情けなさに舌を打つ。
見回せば、わかるのは寝かされていた部屋の広さと暗さ。石造りのそこに明かりと呼べそうなものや窓は見当たらず、少し離れた位置に天井へと繋がった木製の階段があり、光はそこから漏れているものだけだ。
「錬金術師相手に手錠じゃなく足枷ですか」
右足にはめられた鉄製の輪が壁に繋がれているのを見て、やれやれと溜め息をつく。まあ、クライサをここに連れてきた者は、彼女が錬金術師であるとは知らないのだろうけど。
(こうして拐われたってことは、あたしの仮説は当たりだったんだろうな…)
さて、どうしたものか。右足から繋がる鎖を弄りながら思考に耽りかけたその時、階段の上で人影が揺れた。
「……アンタも誘拐犯の仲間だったとはね、コルトさん」
七段ほどの低めの階段を降り終えた人物に、クライサは向けた視線を鋭くする。銀縁の眼鏡の下で、コルトが楽しそうに目を細めた。