「あれ?でも東方司令部の司令官って、クライサちゃんのお兄さんなんじゃなかったのかい?」
ピタリと、クライサとエドワードの動きが止まった。そしてゆっくりと、ギギギと軋んだ音がしそうな動きでコルトに振り返る。
「さっき電話してた時に言ってたよね?お兄ちゃんとか司令官の妹とか」
「コ、コルトさん…聞いてたの…?」
「トイレ行こうと思って通りかかって…ごめんね、立ち聞きするつもりはなかったんだけど…」
暫し呆然とコルトを見ていたが、またゆっくりとエドワードに向き直った。睨むような顔の彼と目が合うとすぐさま両手を合わせ、深く頭を下げる(まともに顔が見られません!)
「クライサ…」
「ごめん!ごめんって!!まさか聞かれてると思わなくて…」
コルトの言葉やクライサたちの反応に、男たちは今度は少女のほうに注目した。そうか司令官の妹なのかと。俺たちが軍の悪口ばかり言っていたから話しにくくなったんだろう、気にしなくていいのにと。そこでコルトと他の男たちが首を捻る。じゃあ、エドワードと司令官の関係は?
彼らの疑問に答えたのは、若干パニック状態にあるクライサだった。
「エドは、あたしとお兄ちゃんのいとこなの!」
本当に本気で、この宿に来たところからやり直したいと思った。
「東方司令部司令官の妹って…あたしの正体明かしてるも同然じゃん…」
「うわあ。アル、すごい綺麗じゃないか」
「あ、お帰り。兄さん、クライサ」
エドワードとクライサが二階に戻ると、部屋ではピカピカになったアルフォンスと、三、四歳くらいの少女が一緒にお絵描きをしていた。
少女はアンシーといって、他の宿泊客が連れている子らしかった。両親が仕事で忙しいからと、今は一階にいる親戚だという男に預けられているそうだ。
アルフォンスがオイルで鎧を拭いている時、匂いが部屋にこもらないようにと開けていたドアから、いつの間にか中を覗いていたらしい。そして彼の鎧を拭きたいと言ってきたのだ。
『でも手がオイル臭くなっちゃうよ?』
『平気!アンシーの家もいっつもオイルの匂いするから!アンシーにも同じ匂いついてるよ、きっと!』
ああ、だから彼の鎧はこんなにピカピカになっているのか。
幼い少女に笑顔を向けられて、エドワードとクライサはつられるように笑い返した。