クライサが戻ると、既にアルフォンスは鎧の整備をしたいからと二階に上がり、グレッグや町の男も自宅に戻った後だった。
潰れていない男たち数人の中にいるエドワードの隣に腰を下ろし、彼らの話に耳を傾けると、どうやら話題は最近のテロと軍に関することに移行したらしい。
男たちの口に上る軍への不満に、エドワードがやんわりとフォローを入れると、徐々に話題はズレながら笑い話になっていった。
それを聞いていたエドワードだが、ふいに隣の男(銀縁の眼鏡をかけた二十代後半か三十代くらいの旅人だ。最初の自己紹介でコルトと名乗っていた)に話しかけられる。随分と軍の肩を持つんだねと。今の状況で軍の肩を持つなんて、よほど勇気が無ければ出来ないと。
「いや、そういうつもりはないんだけどさ」
「あ、もしかしてエドワードくんって軍関係者?」
コルトの言葉に他の男たちも聞き耳を立て始めた。返答を濁す少年を、クライサは内心ハラハラしながら見守る。
民間人の中には軍に不満を持っている者もいる。ここにいる者たちは誰も敵意を剥き出しにはしないが、それでも不満があることに変わりはないのだ。自分たちが国家錬金術師だと、軍関係者だとバレてしまうのはマズイ。
「なんというか…自分はそうじゃないけど、」
何とか誤魔化そうと返答に迷っているうちに、話は思わぬ方向へ流れていってしまった。自分が軍人であることを伏せようとするほど、しどろもどろになる口調。
「身内の方が軍人さんなのかな?」
「なんつーか…オレは軍人じゃないけど…身内にそれっぽいものがいるような…」
「あ、じゃあ、さっき言ってた東方司令部の司令官に、君のお父さんかおじさんがいるんだな〜」
「えっと…まあそんな感じで…」
追求から逃れようと、エドワードはつい、自分を司令官の身内とも取れる言い訳をしてしまった。もちろんクライサがそれを良しとする筈がなく、彼の腕を引くと男たちに聞こえないよう小声で耳打ちする。
「ちょっとエド!もっと上手い言い訳あったでしょ!」
「しょうがねぇだろ言っちまったもんは!今更『やっぱ違います』なんて言えるか!」
「だからってねぇ…」
彼らの会話が聞こえない男たちは、ただじゃれあっているようにしか見えない二人に、ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべている。それだけならまだいい。だが、クライサもエドワードばかりを責めていられなくなるような事態を、コルトの言葉が引き起こした。