どうしたものかと短い時間に思考を巡らせていると、ロイの声が耳に届く。

「クライサ!」

先程の彼女の声に従ったらしく、エドワードとロイはそれまでいた位置から横に移動していた。その場所なら、コンテナが倒れても被害を受けることはないだろう。

「飛び降りろ!受け止めてやる!」

「!」

珍しく余裕の無い表情。不思議と落ち着いていたクライサとは反対に、ロイは焦りに焦っているようだ。
前に飛ぶにはバランスが悪い。後ろに飛んでは倒れてくるコンテナに潰され兼ねない。
ならば、いつもの身のこなしでの着地成功が不可能だとしても、ロイのほうへと飛び降りるしかない。

「ちゃんと受け止めてくれなきゃブン殴るよ、馬鹿兄!」

ゲイルが押し倒し続けているコンテナの上。彼の力無しで地面に向かい始めたそこから、意を決して、飛んだ。


尻餅を突きながらもしっかりと少女を抱き止めたロイの前で、コンテナが轟音と共に地に臥した。辺りには土煙が舞い上がり、彼らの視界を遮ってしまう。

「クライサ、大丈夫か!?」

「怪我は無いか?」

「大丈夫、ありがとう」

発着場に響き渡った爆音、震動。それらが全て収まった頃にクライサは立ち上がり、コンテナの周囲を見回すが、

「……ごめん大佐、アイツ逃がしちゃった」

当然、ゲイルの姿はどこにもなかった。

「いや、君に怪我が無いならいい」

気にするな、とロイは微笑む。それに苦笑した少女の隣で、エドワードが大きな溜め息をついた。

「……しっかし、とんでもない奴だったな…」

地面の上に横たわる鉄製のコンテナ。その有り得ない光景には、正直呆然とするしかない。

「普通、コンテナひっくり返したりなんかするか?」

「それ以前に、こんなの普通の人じゃ動かせもしないよ」

間延びした口調、軍人たちと鉢合わせたというのに全く焦りを見せない男、緊迫感の薄れてしまう状況、そして素手で倒されたコンテナ。
つい先程眼前にしたばかりなのに、どれもにわかに信じ難くて。

(でも、)

どれも、現実なのだ。









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