(クライサとリオン)





「誕生日?」

いつものように司令室に入ると、視界に広がった軍人の仕事部屋とは思えないきらびやかな景色に、開けたばかりの扉を閉めたくなった。
豪華に飾り付けられた室内は、よく見れば小学生の時に友達に招待された誕生日会のものとよく似ている。全て手作りのそれが、錬金術によるものに変わっているだけというところだろうか。天井近くの壁には大きな布が貼られ、このビフォーアフター的な室内を作り上げただろう人物の名が書かれている。

「誰の」

「この部屋見といて聞くの」

ちょうどその人物からツッコミが入った。
大きな布に書かれたのは、『お誕生日おめでとうクライサ!』の文字。自ら用意したのだろうそれに、呆れを通り越して感心したくなる。

「…姫、誕生日なんてあったのか」

「アンタの中であたしは何者になってんの」

5月26日。
何も特別なことは無い、全くの平日だ。天下の氷の錬金術師の生まれた日だというぐらいなら、どこぞの聖人の誕生日や一年の始まりと同じ日だと言われても納得出来るのに。……もしや、宇宙の始まりと同じ日だったりするのだろうか。無駄にスケールが大きそうである(知らないが)。

「ま、今日が本当の誕生日ってわけじゃないんだけどね」

ぽつりと呟いた彼女の声を拾って、どういうことだと問い返した。

「あたし、自分の誕生日知らないんだ」

その話をした時、なら今日を誕生日にしようと言ったのがエドワードだったのだそうだ。初めて彼女の誕生を祝ってくれたのがあの少年だった。

「なーるほど。それで今日か」

「そ」

「おめでとさん」

「ありがと」

プレゼントを催促されるかと思ったが、祝いの言葉の一つでも言ってやれば、これといった物は必要ないらしい。嬉しそうに笑った少女に、こちらも自然と笑顔になった。

「しかし大がかりなことするな。毎年やってんの?」

「んーん。いつもはお兄ちゃんがやってくれるんだけど、三十路近い男がせっせと誕生日会準備をしてる姿を見るの、さすがに耐えられなくなってきてさ」

「……何やってんだあの人」





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おめでとう、0526





【H21/05/26】





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