「誰が一番コントロールがいいかな」
「最後にキャッチボールしたの、大佐はいつ?」
「十年…いや、もっと前だな」
「オレ、二年前」
「では…」
持っていた石をエドワードに渡そうとしたロイの手から、クライサがそれを奪い取る。
「クライサ?」
「任せて」
「お前、キャッチボールしたのオレより最近なのか?」
「そんなもんした記憶もないよ」
「じゃあ…っ」
振り返った少女の表情に、エドワードだけでなくロイまでもが息を飲む。不敵な、悪戯好きなその笑顔に。
「ナイフの投擲なら、毎日のように訓練してますけど?」
コントロールには自信がある。
「大佐は知ってるでしょ。あたしの投擲の正確さ、ヒューズ中佐より上なの」
鼻歌でも歌い出しそうな上機嫌さで肩を回す。ロイは一度溜め息をついてから、彼女に場所を空けた。
「あの見張りたちを奥の貨物の間に誘導出来ればいいよね」
「奥の鉄製のコンテナまで届くか?」
見張りを超え、更に斜め奥の貨物に石を当てるとなると、結構な距離がある。だが、クライサの表情は自信に満ちている。
「あたしを誰だと思ってんの」
石を右手に持ち、胸の前まで引いて構える。ロイとエドワードが見守る中、軽く息を吐いてから、少女がそれを放った。どれほどの速度が出ているのか、真っ直ぐ石は飛んでいく。
数秒後、遠くの貨物車の上。ゴン、と短い音が鳴った。
「なんだ?」
「あっちだぞ」
見張りの一人が貨物車の間に消えていき、もう一人が銃を構え直して右左に歩きながら、音のした貨物車を窺う。
その隙にクライサたちは、一番近くにある貨物車の間に走り込んだ。僅かに砂利を踏む音がしたが、それは見張りたちの足音と重なり、気付かれずに済んだようだ。
「……さすが」
「いいコントロールだな」
「当然っ」
貨物車の連結部に潜んでいると、彼らのいる位置の更に奥から声が聞こえた。爆弾のスイッチを押す役の者だろうか、男の声を聞くと見張りは元の位置に戻っていく。
奥のレールは軍の荷物を扱うレールだ。そこに爆弾が仕掛けられているということだろうか。