第三章





翌朝、クライサたちは相変わらず忙しそうな司令部を後にして、イーストシティの街の中を歩いていた。
クライサの隣には軍服姿のロイ。私服でなくて大丈夫なのか、と心配にもなったが、どうやら東方司令部はごく近所の人々にはそれほど嫌われていないらしい。
苦情はきているのだが、それでもまだ暴動が起きるような緊迫した状態ではないのだろう。見回りの兵たちと一般人の間に軋轢は見えなかった。

「司令部はあんなに忙しかったのに…わりと外は落ち着いてるんだね」

「なんかこうして見ると……まるでテロリストと軍部だけが対立しているみたいですね」

駅に向かって歩くクライサたちとすれ違う人々の表情からは、テロに対する恐怖は微塵も感じられなかった。
ただ、列車の運行の乱れを知らせるニュースに愚痴をこぼしながら、繰り返される一日に追われている。怪我人が出ておらず、直接的に身の危険を感じていない一般人は、さほどテロリストの動向を気にしているようには見えなかった。

「それより大佐は何の用でここまで来たわけ?今休憩時間なんだろ?」

「休まなくていいの?昨日も遅くまで仕事してたみたいだし…あんまり寝てないんでしょ?」

「ああ…美術商の子供が誘拐された件で、ご家族に確認したいことがあってな」

仕事とはいえ、東方司令部の管轄ではない。しかもこの忙しい時に部下を連れてはいけないだろう。ロイ自身、休憩時間でないと外に出る暇もないのだ。

「大佐って結構仕事してるんだな。噂と随分違う」

「…その噂とはサボり癖があるとか、仕事よりデートを優先するとか、そんなくだらない噂だろう」

「あれ、違ったっけ?」

心外そうに片眉を上げたロイの隣で、とぼけたようにクライサが言う。その表情はあの、悪戯好きな小悪魔のそれだ。

「そんなものを鵜呑みにするな。私だって『たまには』真面目に仕事をする」

「「………」」

到底自慢出来ない言葉だ。噂を訂正する予定だったエドワード、否定してくるだろうと思っていたクライサは、揃ってロイから視線を外した。










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