「いや、君は兄弟と旅を続けなさい」
送り出したのは自分なのだから、忙しいからと言って無理に引き戻したくはない。クライサが了承しているとしてもだ。
「人手が少なくとも、やりようによっては何とかなる。……まあ、本当に必要な時は、君や鋼のに手伝いを頼むかもしれないがね」
「お安い御用ですよ、大佐殿」
ニッコリと嬉しそうな笑みを見せると、クライサは彼の肩から手を離し敬礼をしてみせる。それに対し、ロイは穏やかに微笑んだ。
「今日はもう休みなさい。明日にはここを発つんだろう?」
「うん、相変わらずの根無し草っぷりでね。お兄ちゃんもキリがいいところで休みなよ?」
「ああ、分かっているよ」
部屋の外へと続く扉に足を向け、振り返るようにして軽く手を挙げる。
これでまた暫くサヨナラだ、などと思いながらも、寂しいと感じることは無いのだろう。
ロイはテロや誘拐事件の犯人を捕らえるため、クライサは目的を果たすために、また忙しくなるのだから。
「おやすみ、お兄ちゃん」
「おやすみ、クライサ」
静かに閉じた扉の向こう。
ロイが溜め息をついたのが分かった。
(嫌な、予感…)
扉に背を預けたまま、足を踏み出せない。昼間列車の中で見たあの影が、忘れられない。
この事件は、まだまだ終わりそうにない。これは、予感なのだろうか。
(なんか、また…)
巻き込まれそうな気がする。
室内の兄同様、深い溜め息をついた。