「何、テロだけでも対処が大変だっつーのに、別の事件も調べてんの?」
誘拐事件は管轄外だと聞く。なのに、テロが横行している中、他の事件にまで手を出していて良いのだろうか。余計なことをしないで早くテロリストを捕まえろ、と上層部に叩かれるのでは?
「…まあ、上の狸オヤジ共がいくら喚いたところで、お兄ちゃんがやめるとも思わないけどね」
「よく分かってるじゃないか」
「妹ですから」
ロイの肩に両手を置き、その後ろからファイルへと目を落とす。ぼんやりと紙面を眺めていると、不意にあることに気が付いた。
「…これって…」
連続して起こっている誘拐事件。その全部に、共通する点がある。
誘拐されたのは、退役軍人の孫、国家の研究機関所長と懇意にしていた富豪の子供、中央に権限を持つ軍人の子供……そして今回は軍に多額の金を寄付した美術商の子供だ。
「どれも軍に関係する人間ばかりを狙ってるね」
そして、もう一つの共通点。
身代金さえ払えば、子供は無事に戻ってくる。テロ同様、怪我人は出ていない。
「怪我人が出ないことでテロリストや誘拐犯への敵意は薄れ、かわりに検挙出来ない軍に不満が集まる」
「軍に不満が向くようにして、身代金は軍の関係者に要求……犯人は軍に恨みを持つ者?」
「だろうな」
小規模とはいえ、こう頻繁にテロが行えるということは、それなりの資金源がある筈だ。そして、現在ロイたちの目に見える形で動いている大きな金は、誘拐の身代金だけ。
「誘拐された子供たちが見た犯人の顔はどれも違っていたし、テロ現場で見かけられた怪しいとされた者たちも誰一人として同じ人相ではなかった」
その事実のために、誘拐事件と連続テロの犯人、またテロ自体もそれぞれ違う犯人と思われていた。だが、ロイとクライサは全く同じ可能性に気付いている。
「複数の人間を使って事件を起こしている人物がいる…?」
今は情報があまりに少なく、断定は出来ないが。もしかしたら自分たちは、想像以上に手強い敵を相手にしているのかもしれない。
「……人手が必要だね。あたしも戻ろうか?」
自分も一応は東方司令部の一員なのだ。好き勝手に旅を続けるのも、他のメンバーたちに悪い気がする。