「長時間歩いて疲れたしさ、仮眠室借りて寝かせてもらおうよ」

「お前はもう少し遠慮ってもんを覚えたほうがいいぞ」

「大丈夫大丈夫、仮眠すら取れないほど忙しそうだから、仮眠室も空いてるでしょ」

「尚のこと、少しは悪いとか感じようよ」

「お前やっぱり図太いな」








深夜。
大方の仕事を片付け指示を出し終えたロイは、司令部に戻って初めて椅子に腰を下ろした。戦場のようだった部屋は少しは落ち着いている。

腹心であるホークアイが淹れたコーヒーに口を付けながら、用意してもらったファイルに目を落とす。
真剣に字を追っていた彼だったが、ふとその気配に気付いた。当直の兵が部屋を出たのと入れ替わりに入ってきた、少女の気配に。

「……どうした?」

顔を上げその姿を確認し、同時に微笑んだ。

「一先ず落ち着いたみたいだね、お疲れさま」

微笑みに返すよう穏やかに笑み、クライサは部屋の奥、ロイの机の前へと歩みを進めた。ロイは兄の、クライサは妹の顔をしている。

「すまなかったね。こちらが誘ったというのに、お茶を出すことも出来なかった」

「いいよ、自分でいれたし」

エドワードたちはどうだか知らないが、彼女は元々そんな期待はしていなかった。
立て続けに事件が起こっているのなら、当然司令部は忙しさに包まれている筈だ。司令官が、呑気に客人と茶をしばいている暇なんてあるわけがない。

「それで?こんな時間にどうしたんだ?まだ寝ていれば良いだろうに」

「ちょっと目が覚めちゃってね。それに……久しぶりに会ったお兄ちゃんと、ゆっくり話がしたいなぁと思いまして」

エドワードたちと旅に出て以来、ロイに会ったのは本当に久しぶりだ。テロ事件やら何やらで忙しそうにしていたから自粛していたが、兄大好きな妹としてはやはり少しぐらい話がしたいわけで。

「……仕方がないな」

溜め息をつきながら告げたロイの表情は、言葉に反して嬉しそうだった。

「ーーあれ。これ、何?」

ふとロイの手元に目を落とし、そのファイルの存在に気付いた。
彼の後ろに回り肩越しに覗き込むと、それが誘拐事件の報告書であるのが見てとれた。









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