二人きりだし、不満をぶつけられても何も出来ない。反論しようものなら、余計に軍の印象が悪くなるだけだ。下手に市民を刺激するよりはいいだろう。

「大変ですね」

「まあな、通常の仕事もあるし、誘拐だの強盗だのとテロ以外にも事件は起こってるしな。……だから、たまには華やかな会話で息抜きしたかったのに…」

言いながらロイは、わざと恨みがましそうな目でエドワードとクライサを見た。だが

「だからって、あんなにあからさまな無視もないでしょ。こっちだってアテが外れたばかりでイライラしてたのに」

余計なことを言ってしまったらしい。大きく顔を歪めたクライサの眼光に負け、ロイは顔を背け溜め息をついた。

「……それにしても…」

爆発後の煙がゆっくりと流れる空を見上げ、クライサが足を止める。彼女の様子に気付くことなく、ロイたちは先へ先へと歩みを進めていた。

(なんか…嫌な予感がする…)







二時間近く歩き、列車を乗り継ぎ、車を使って。東方司令部に着いたのは、既に日もすっかり暮れた頃だった。
お茶でも飲もうと誘われてついて来たエドワードたちだが、忙殺状態の司令部の様子に圧倒され、扉の前でぼんやり立つ羽目になった。気付けばクライサの姿もない。

軍服に着替えたロイはあっという間に仕事に埋もれ、エドワードとアルフォンスの視界から消えていく。机の書類を読みながら、聞こえる報告に片っ端から指示を与える彼。
アルフォンスと顔を見合わせたエドワードの前に、一つのカップが差し出された。

「まずい茶で良ければ一杯どうぞ」

クライサだ。姿が見えないと思ったら、どうやらロイたちのためにコーヒーを用意していたらしい。

「いや……邪魔になると悪いから、早々に退散するよ」

「別に退散する必要は無いでしょ」

手にしていたそれをエドワードに押し付け、もう片方の手に持っていたトレイから別のカップを取る。それに口を付けてから、落ち着いた様子で少女は言った。

「見た通り忙しいからエドたちに構うことは出来ないけど、邪魔だと思われることも無いよ」

元々ここで働いていたからこそ、こういう時の忙しさはよく分かる。だからこそ、自分たちが邪険に扱われることもないということも、よく分かるのだ。









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