ブレーキがかかり、激しく揺れる列車。遠くに見えた、小さな影。自分のいる世界の騒々しさと、あまりにかけ離れた静かな影。
ただの岩陰かとも思われたが、影から目を離そうとした瞬間、その口元が、笑ったように見えた。





第二章





「なんで急停車するんだ?」

「大丈夫なのかしら?次の駅までまだ大分あるのに…」

「もしかして、また爆弾テロじゃないのか?」

口々に言う乗客たちの声を耳にしながら、クライサはもう一度外に目を向けた。だが影はどこにもなく、茶色の荒野だけが広がっている。

「クライサ?どうかしたか?」

「……ううん」

立ち上がったエドワードが、外を凝視したまま動かない少女の顔を覗き込む。それに対し、クライサは何でもないと笑って返した。
急ブレーキでぶれる列車の中、更に逆光になっているのに、影が笑ったように見えるのはおかしい。ニヤリとした口元が見える筈はないのだ。気のせいに決まっている。

「怪我人はいないみたいだね」

「そうだな。みんな手近な所に掴まって衝撃に堪えたんだろ」

急停車したといっても元々それほどスピードは出ていなかったため、衝撃も少なかったらしい。運良く怪我人はいないようだ。

この先のレールで爆発事故があったと、列車の外を走りながら乗務員が状況を伝えにきた。一連のテロリストによるものだと思われるらしい。
近くにある軍の施設から馬車が来るのを待つか、元の駅まで歩いて戻り臨時の列車を使うかしてくれ。
そう聞いた途端、車内で不満の声が上がった。そのどれもに、軍に対する不満が含まれている。

「なんだか軍が悪く言われてるけど…大佐、これは一体…」

「しっ!エド、軍の肩書きは言わないほうがいいみたいだよ」

列車の外へと目を向けると、先に降りていたロイが、軍の者であることは告げずに乗務員と話をしていた。怪我人がいないことの確認をし、次の駅までの距離を尋ねるとこちらへと戻ってくる。

「元の駅に戻っても違う路線に回されて遠回りするだけだ。先の駅に行こう。少し歩くが行けない距離じゃない。…君たちはどうする?」

「また遠回りするなら先に行ったほうがいいよな」

「うん」

「そだね」









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